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C型肝炎・肝がん撲滅へ向けて 〜C型肝炎ウイルスの管理
 慶應義塾大学医学部 消化器内科 専任講師 齋藤 英胤先生

去る、6月20日東京の文京区民センターで開催された当会の第14回定期総会後の記念講演会では今までにない200名を越える参加者を得て成功裡に終わりました。ご講演の後、会場からのたくさんの質問にもすべて丁寧にお答えいただきました。録音テープより起こし、お忙しい中、先生にご校正・監修をいただきました。先生にはこの誌面を借りてお礼申し上げます。この場に参加できなかった方にも臨場感を持っていただけるよう、なるべく忠実に再現するよう心がけ、図を多用しました。なお、小見出しは、編集部でつけさせていただきました。

はじめに

 慶應病院における肝硬変の患者さんを見てみますと、400人の方の肝硬変の原因のうちの70%はC型肝炎ウイルス(HCV)、10%がB型肝炎ウイルス(HBV)、10%がアルコールです。それから入院患者さんを見てみますと、この3年間で大体3000人ぐらいが入院されたのですが、その3分の1が肝臓の病気で入られました。そしてその肝臓の病気のうちの半分以上が肝がんです。これは憂慮すべき問題です。
 その肝がんの原因は、10%がHBV、80%がHCVで、いかにHCVが末期肝疾患にとって重要であるかおわかり頂けたかと思います。
 図1は最近の死亡統計から取ったものですが、肝がんで亡くなった方は年々増え続けており、特に60歳以上の方の死亡が多くなっているのが特徴です。慢性肝疾患の最終的な段階として肝がんがあるわけですが、減少しつつある胃がんとは対照的に、増加しているこのような癌に対して我々は何らかの手を打っていかなければなりません。

HCVの感染

 あるウイルスが体の中に入ると、例えば麻疹とか水疱瘡では、1回かかり、治ってしまえば、その後一生かからないと言われています。ところがHCVの場合は、体の中に持続感染して慢性肝炎になってしまうわけです。どうしてかといいますと、これはインフルエンザウイルスでもそうですが、ウイルスがどんどん変異を起こしてしまって、表面にある抗原がどんどん変わっていきます(図2)。

そうして1年ぐらいすると、表面にあった抗原がなくなってしまって、全然違う顔を持ったウイルスになる。こういう変異によって免疫、すなわち体の外来異物を取り除こうとする力から逃れてしまって、ウイルスが体の中に残ってしまうと言われています。
 それから最近では、こういう免疫から逃れられるような作用を、ウイルス蛋白の1つが持っているのではないかというような研究も進んでいるところです。

C型慢性肝炎の特徴(図3)

 慢性肝炎の70〜80%がC型ということですが、この病気は多くの場合自覚症状がない。それから肝機能が変動するのですが、ときには全く正常な時期もある。ですから、検診などのときに正常な時期に重なってしまうと、ウイルスがいるというのに全く気づかないわけです。それから自覚症状のないまま悪くなっていって、気づいたときには肝硬変だった、あるいは肝がんだったという方もいる病気であります。
 HCVに感染すると、どのように変わっていくかお見せします。図4は、肝臓の中から肝生検で組織を取ってきて顕微鏡でみた写真ですが、時間経過とともに肝組織に線維が溜まっていきます。線維は、お肉を食べて噛みきれない「スジ」みたいなものですが、写真はスジを赤く染めるような方法で示してあります。経過とともに赤いスジが肝臓の中に増えてくる。最後にスジに囲まれた結節(再生結節)ができてくると肝硬変といっています。

 こういう段階を便宜上、F1、F2、F3、F4に分類するという決まり事をしまして、患者さんに肝生検をして、その肝臓の障害の進行がどのぐらいのところにいるのかということを私たちは推定することになるわけです。5年ぐらい前の研究によりますと、1年間の発がん率はF1で0.5%、それが10年経ってF2になると、1〜2%、また10年経つとF3で3〜5%、また10年でF4になると7〜8%ということで、だんだん発がん率が増えていくということが分かってきまして、この病気は年数を経るごとにがんができやすくなるとともに、肝硬変に進んでいく、そういう病気であるということが認識されたわけです。
 1960年ぐらいに輸血を受けた人が、40年ぐらいたって、このような経過をたどっている人が多いです。ただし、ウイルスに感染したからと言って、皆さんが100%このように進むかというと、そうではない。ウイルスに感染した方の20%ぐらいは、ウイルスが排除されます。これは自然に免疫の力でなくなります。残った80%の方のうち3割ぐらいはF1とかF2ぐらいで、進行しないで、そのままでいるのですが、残りの40〜50%の人が、だんだん進行していくと考えられています。

C型肝炎の検査について(図5、図6)

 40歳以上になると節目検診をやっていますが、そこでは抗体の検査をします。抗体の量を見て、抗体が陰性の人、あるいは抗体が少ない人はまずウイルスがいないと考えていいのですが、抗体が多い人には、その後、抗原の検査、あるいはRNAの検査をします。そこでウイルスがいるかいないかということが分かってくるわけです。
 ウイルスがいることが分かった後やる検査としては、体の中にウイルスがどのぐらいいるかということ、これは血液中にウイルスがどのぐらいいるかというのを調べているわけです。RNA定量アンプリコアという方法が一番よく使われていますが、測定限界0.5キロユニットまで測れます。それからもう1つは、ウイルスのタイプを調べておりますが、ジェノタイプを調べれば一番いいんですが、お金がかかってしまうので、保険で適用になっているセロタイプを調べます。日本人では、セロタイプの1型というのはほとんどすべて、ジェノタイプの1b型です。セロタイプ2型ですと、ジェノタイプ2a型と2b型があって、それが2対1の割合です。日本では多くの方が1型で、インターフェロンが効きにくい型のウイルスを持っているというのが現状です。
 肝臓の状態を調べるには肝機能検査をします。例えば肝細胞がどれだけ壊されているかというのは、AST・ALTという値で調べている。それから肝臓でつくるたんぱく質や脂肪類などについては、アルブミン、コレステロール、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼなどの値で調べています。それから色素の排泄については、黄疸色素であるビリルビンの値、あるいは緑の注射をして採血するICG試験をやって、状態を調べています。
 肝臓がだんだん肝硬変に近づいてくると、胆汁がうっ滞してくるのですが、そうするとALP、γ―GTP、LAPなどの酵素が高くなってきますので、こういう数値で判断します。がん化に対しては、AFP、PIVKA―U、あるいはAFPのL3分画などを測ります。そういうことで調べた人の肝臓がどの程度痛んでいるかを推定するのです。

C型慢性肝炎のフォロー

 肝硬変への進展をチェックしなければなりません。
 まず、臨床的な徴候を見ます。手掌紅斑といって手の平が赤くなっていないか、胸の上に血管が少し開いてくるクモ状血管腫などができていないかどうか。そして、腹水ができていないか、あるいは食道静脈瘤ができていないかということで、胃カメラ、超音波、CTなどの検査をやっていくわけです。それから先ほど述べた各種血液検査をやります。肝がんの早期発見のためにはCTやエコー、それから先程の腫瘍マーカーの検査をします。しかし、保険の関係上、毎月1回やるというのはできないので、交互にやっていくというのが現状です。
 C型肝炎は20%が治ります。それからごく軽い肝炎のままで天寿を全うする人が30%ぐらい、そして残りが進行性の慢性肝炎になるわけです。そのうち肝硬変へ進んでいってしまう人が30から40%で、その多くは長生きをすれば肝がんになってしまうというように進行をしますので、われわれ内科の医師は肝硬変へ進行させないということが重要になってくるわけです。

C型慢性肝炎の治療

 まず第1にはウイルスをなくしたい。ウイルスがなくならない方に関しては、なるべく進行を遅らせることによって、発がんの予防を目指して治療を行っていくわけです。
 C型慢性肝炎の治療(図7)は、ひとつは肝庇護療法です。UDCA(ウルソ)とSNMC(強力ネオミノファーゲンC)と小柴胡湯の投与です。これはいわゆる大規模試験をして、本当に効くということが客観的に証明されているお薬です。これを飲みますと、先ほど言ったALT・ASTが下がってきます。それが下がるということは、肝細胞が壊れるのが少なくなり、線維化が少なくなるということで、従って肝硬変への進行が遅くなってくるということです。ウイルスが消せない人は、なるべくこういうものを飲む、あるいはまだウイルスを消す必要のない方もなるべくこういうもので進行を遅らせるということになります。

 もう一つは原因治療です。これはインターフェロン(IFN)の投与です。これにより発がん予防もできるのではないかと最近言われています。このIFNが、どうやって見つかったかといいますと、ある細胞にウイルスを感染させておきますと、次にやってくるウイルスがその細胞に感染できないということが分かり、では、どうして感染できないのかを調べましたら、始めに感染した細胞がこのIFNを出していたんだとわかりました。身近な例では、インフルエンザウイルスが体に感染しますと、体の中でIFNがつくられます。それはウイルスがそれ以上もう感染しないようにということで、体が反応して作るわけですが、IFNを打つと、そういうインフルエンザ様症状が出てくるというのは、体の中でつくられる物質をそのまま外から入れているからだということになるわけです。
 ところが、ウイルスの増殖を止めるだけではウイルスはなくなりません。最終的には体の中の免疫の力が賦活されて、ウイルスがいる細胞が壊れないといけない。IFNを投与して、ウイルス量を見ていくと、始め1〜2週でものすごくウイルスが減るんです。これはすなわち肝臓の中でウイルスが増殖している、それをIFNが直接少なくしてくれているわけでありますが、では、1〜2週でいいかというと、その後ウイルスが感染している細胞はまだあるわけです。増殖はしていないけれども、ウイルスは残っている。そういうウイルスの残った細胞を体のリンパ球が全部たたいてくれるという時期が必要だということで、少なくとも6ヵ月投与しないと、そういう細胞がいなくならないということであります。ところが6ヵ月治療しても、こういうウイルスが残っている細胞を、免疫の力ですべて排除するというのがなかなか難しいというのが現状でありました。

IFN治療後の肝がん発癌率(図8)

 インターフェロン治療を開始されてから約10年経過して分かってきたことですが、治療しなかった人が年数がたつとこのように高率でがんが出てくる。一方、IFN治療でウイルスが消えれば、がんが出てくる割合をドーンと減らしてくれるということがあります。一過性にでもウイルスが消えた人でも、やはり発がん率は抑えられているということで、IFN治療に成功すれば、発がん率が低下するというのが一番の福音です。
 もう1つの利点は、図9のように、ウイルスが排除されれば、先程言いましたF1からF2、F2からF3へというような1段階の進行が年率で約0.3段階ぐらいの割合で線維がだんだん改善されて、肝硬変だった肝臓がもしウイルスが消えれば、慢性肝炎に戻ってくるという点であります。

IFNの治療効果

 従来、IFNは単独(図10)でしか使えませんでしたが、通常2週から4週間、毎日注射を打って、その後、週3回、6ヵ月間続けるというスケジュールで治療を行ってきたわけですが、なかなかウイルスは消えにくい状況がありました。

 その後、リバビリンとIFNの併用療法が行われるようになり(図11)、著効率(SVR)があがりました。その著効率をなるべく高くしようというのが私たちの研究テーマであったわけです。いろいろな研究をやってきたなかで、IFN治療効果を規定する因子が分かってきました(図12)。1つはウイルス量、量が多いと効果が低い。それからウイルスのタイプ、1b型(セロタイプ1型)は効果が低いです。それからNS5Aというウイルスの1つの遺伝子の部分ですが、それに変異があるか、ないかということで、また効果が変わってきます。それから肝硬変に近ければ近いほど、効果は低い、それから年齢が高くなればなるほど低い、肥満もあれば低いと言われています。

 IFN単独投与の効果はどうかといいますと、1型のウイルスに対する治療効果と2型に対する治療効果の比較では、2型のほうが全然効果が高い。1型はスタディによってはウイルス量が500以上の人は全然効かなかったということで、ウイルスが増えれば増えるほど効きにくい。こういう2つの関係があったわけですが、日本は、世界の中でも早期に治療が始まったのですが、新しい抗ウイルス製剤のリバビリンやペグIFNの導入がどんどん遅れてしまいまして、今ではもう世界に5年の遅れをとっているという状態であります。
 日本の治療薬の変遷ですけれども、現在はIFNとリバビリンが6ヵ月間使えます。これがもし48週間(約1年間)使えればもっと治療効果は上がります。ペグIFNが単独で使えるようになりましたが、これはIFNとリバビリンの6ヵ月投与と大体同じぐらいの治療効果と考えられます。世界ではもうすでにペグIFNとリバビリンを使って、1年間の治療が行われていて、1型のウイルスでも50%ぐらいの人でウイルスがなくなっているという状況にあります。
 われわれのところでもリバビリンを使ってみますと、1型のウイルスでほとんど効かなかった人たちが、ウイルス量が500 KIU/mlぐらいまでの人でしたら、50%ぐらいの人が効くようになってきています。ウイルス量が500 KIU/ml以上でも10%ぐらいの方は効いて、施設によっては15%ぐらいまでは効いてきています。これからペグIFNとリバビリンの併用療法が出ると、さらに効いてくるということになります。

IFNの副作用

 ただ、IFNは副作用が強いからやらないという人が結構いらっしゃるのですが、それではそれはどういう副作用かといいますと(図13)、よく見られる副作用としては、インフルエンザにかかったような症状は必ず出てきます。しかしこれは鎮痛解熱剤を飲めば大体抑えられます。それからもう少し重い副作用があります。これは治療を始めて3ヵ月ぐらいすると、図の右側にあるような症状が出てきます。一番困るのはやっぱり鬱状態、それから多いのは脱毛、湿疹です。そういう副作用が出てくると、IFNあるいはリバビリンを減らしたり中止しなければならない方もいらっしゃいます。ただし、今まで2000例ぐらいの方がIFN治療を受けたのですが、後遺症が残ったような方はいないというのが、今の慶應関連病院の現状であります。

 重い副作用は、月に1回通院していて、何かおかしいということを我々ドクターにきちんと話してくだされば、早めに見つかって防げるというのが今の現状だと思います。ただし、どうしてもウイルスを消したいという患者さんの希望が強いと、ちょっと我慢してドクターに言わないというようなことがあるんですが、そういう方に限ってこういう副作用があとで出てきてしまうということがあります。あまり我慢せずにお話しするというのが一番のいいスタンスだと思います。  最近高血圧、あるいは糖尿病のある方にやっていると、脳出血が出やすいと言われたのですが、実はこれは高血圧、糖尿病を持っている方のすべての数を調べて、頻度を調べてみたところでは、特別IFNを打ったから脳出血が増えるというわけではない、ということで決着がついております。

ペグIFN

 ペグIFNが昨年12月より使えるようになりました。図14は血液中のIFNの濃度を縦軸にとって、日にちの経過(横軸)で濃度がどの様に変化するかを示しています。今までは1週間に3回打つIFNでしたので、そうすると、1回打つごとに、血中濃度が増えるんですけれども、打たないところではIFNの濃度が下がってしまいます。図のように山と谷が3つ出来ます。こういう欠点を埋めるために、ポリエチレン・グリコールをIFNにくっつけて、吸収を遅らせる、あるいは体の中に分布するのをちょっと変えるという、そういうことによって血中濃度を保てるような製剤が出てきました(図で山は1つです:「PEGASYS」)。

 一方、ペグIFNとリバビリンの併用療法が、おそらく12月に出来るようになると思いますが、これをすると、ウイルス型が1型の方でも50%近くウイルスが消えていくというのが今の欧米の成績でありますので、おそらく日本でもそれが始まって1年間投与すると、今まで効かなかった方もだいぶ効いてくるということが期待できます。
 このペグIFNの副作用はどうかというと、今単独で打っている方がいらっしゃいますけれども、その方は発熱とか筋肉痛、ふるえみたいなもの、それから鬱病の出方も今までの製剤に比べて少ないという報告がありまして、今ペグIFN単独で打っている人は以前に治療したIFNよりもすごく楽だと言っている方が多いです。

IFNの長期投与

 もう1つ、日本の特徴は、IFN単独でしたら長期投与ができるということであります。図15は長期投与をした人の血小板数の変化を示しています。6ヵ月間投与をした人27例、6ヵ月から2年間投与した人20例、それから2年以上投与した人20例のデータです。6ヵ月だけ投与した人は、だんだんだんだん治療後血小板が下がってきています。これは大体10年ぐらいの間を見ているスタディですけれども、2年以上投与した人では血小板がほとんど下がってこない。

 それからもう1つ重要なことは、図16で示していますが、前記の例で始めてから10年(120ヵ月)経っていますけれども、2年以上投与した人の中からは1人もがんができてきていません。6ヵ月間しか投与しなかった人からはやはりがんがでてきている。これらは、すべてウイルスを消せなかった方です。6ヵ月投与してもウイルスが消えなかった、6ヵ月から2年やっても消えなかった、2年以上やっても消えなかった、という人たちの比較ですので、ウイルスが体の中にいても、IFNを長期に打っていれば、発がんが減らせるだろうということがこれで大体分かってきたわけです。

肝硬変

 肝硬変になると(図17)、手掌紅斑といって、小指のもと、掌が赤くなる、これが始めの兆候で、お酒を飲む方は結構これが強いのですが、そういう症状が出てきた後、「お父さん、最近お腹が出てきたね」と言っていると、実はお腹に水がたまっていたとか、あるいは内視鏡をやると、食道の中に血管が浮き出てきている。こういう血管は食べ物が通過するたびにこすれて、血管がだんだん薄くなってきて、あるとき破れてしまって大吐血を起こす、そういうこともあります。

 それからもう1つ忘れてならないのは、肝臓が硬くなると門脈圧亢進が起こってきます。そうすると、この門脈から入ってくる血液が肝臓を抜けて心臓に戻っていくわけですが、肝臓の中をなかなか通り抜けない。そのためにホースの先端が縛られたような形になってしまって、門脈の下のほうに圧力がかかるわけです。そうすると、先ほど言ったように、食道に抜けていく血管が膨れてくるのが1つ、それからもう1つは、ずーっと下のほうにくると痔が出てきます。これも1つの兆候であります。
 それから、肝硬変の人の血液検査で重要なのは(図18)、肝硬変になるとだんだんASTのほうがALTよりも高くなってくる。それから血小板がだんだん減ってくると言われています。それからICGという検査をやるとはっきりするのですが、血液の色素の取り込みが悪くなってくるということがあります。

 ただし、この血小板数と肝臓の線維化の程度を調べてみました(図19)が、F1の方30人、F2の方30人、F3の方30人、F4の方30人で比べてみますと、上の線が最大値、下の線が最小値で、F1からF4までほとんどみんな重なっているんです。ですから、例えば血小板数が15万と言われても、F1の人もいるし、F2の人もいるし、F3の人もいるし、F4の人もいる。血小板数が10万と言われても、F1の人も10万の場合があるんです。ですから、肝生検をやってみないと、今肝臓がどのぐらいの状態かというのは分かってこない。それから血小板数が25万あるから大丈夫と思っていても、実は肝硬変になっているかもしれません。

 ですから、昔は25万ぐらいあって、それがだんだん減ってきて、10万を切りましたよとなると、そういう人は10万を切った段階で、ちょっと肝硬変になったかなあというふうに考えていただく。1人の人がだんだん減ってきて、10万を切ったらという、そういう形で考えていただければいいと思います。

肝がん

 今までの話を総合すると、C型肝炎ウイルスに感染すると、こういう経過(HCV感染の自然史:図20)で最終的に肝がんが発生してきます。この発がんをなくすべく、途中の時点でIFN治療をすると進展を止めることができます。そういう人はそれでよろしいのですが、ウイルスを消せなかった、あるいはウイルス感染に気づかなかったので、既にここまで進んでしまったという人はどうするかという話になるわけです。

 肝硬変になってから、どのぐらいで肝不全兆候が出てくるかということですが、大体5年経つと15%ぐらいの人が肝不全にだんだんなっていく。それから、肝硬変と診断されてから、肝がんができてくるまでの年数ですが、「あなたは肝硬変ですよ」と言われてから5年ぐらいたつと、約5%から7%ぐらいの人に肝がんができてくるというデータが出ています。これはただ統計ですから、自分が5年経つと5%の確率で必ず肝がんになるというわけではありません。
 がんというのはだんだんだんだん進行していきます。遺伝子的に見ますと、いろいろな遺伝子の変化が起こって、がんが進展していきます。それから病理学的に見ますと、前がん病変といわれるような部分にがんができてきて、それがだんだん進展していきますので、例えば肝硬変で診ていて、少し結節が大きいのが見えてきたよといったときに、その結節をずーっと注意深く診ていかなければいけないということです。
 肝硬変になると肝臓の中にいっぱい結節ができてきます。どういう結節が肝がんかといいますと、組織学的に見て、結節の中で大きい結節ががんになってくるわけです。C型肝炎の肝がんというのは、多中心性発生をして、同時性あるいは異時性にいっぱいできてくるということです。
 もう1つ重要なことは、肝がんの細胞が始め1個だったのが、増殖してだんだん大きくなってくるのです。図21に書いてある10の9乗個に細胞が増えてくると、約1センチの大きさのがんになります。それが10の12乗個になると10センチのがんになります。ところが、この1センチの大きさのがんになるまでには、がん細胞は30回分裂しなければなりません。ところがこの1センチのものが10センチになるには10回分裂すればなってしまうという生物学的な規則があるわけです。ですから、我々はCTや超音波検査で、1センチ、2センチの肝がんを見つけますが、その時点ではもうすでにその何年か前に、目に見えないがんが体の中にあるということを考えなければいけません。

IFN治療による肝発がん率の抑制

 図8に示したように、IFN治療をすると、肝発がん率が下がるということは、実は目に見えないがんがあるのですが、IFN治療をすることによって、その目に見えなかったがんが治療しないとだんだん大きくなってしまうところを治療することによって消えてしまうか、あるいは小さいまま残っていてくれる。こういうことによって、もしかしたらがんが抑制されているのではないかというふうにも考えられるわけです。

慢性ウイルス性肝疾患のフォローアップ

 肝がんの発生をどうやって見つけるかといいますと、AFPやPIVKA-U、L3分画で見ているわけですが、どれも高い人もいますが、どれか1つだけ高い人もいるので、やはり3つ調べていかなければいけないということです。それから3つとも高い人はそれだけ悪性度が高いというふうに考えなければいけません。こうやってウイルスがいる人、それから肝硬変になった人、こういう人は発がんの高リスク、高危険群ですので、3ヵ月に1回ぐらい画像検査をして、変な結節ができていないかを調べる。それから血液検査で、AFP、PIVKA―U、L3分画を調べる。そういうことをして見つけていくわけです。

肝がんの治療

 肝がんの治療法には大きく分けて、手術、局所療法、経カテーテル治療があります。私が医者になったころには、肝がんはほとんど手術していました。例えば胃がんや大腸がんは、がんを取り除けば、それで済んでしまいます。再発しないわけです。ところが、C型肝炎でできた肝がんは、手術をして、がんのところを取り除きます。ところが、がんを取り除いた残った肝臓にはウイルスがいますから、そのウイルスがいる肝臓からは年率5%の確率でまたがんができてくるわけです。いわゆる多中心性の発生をするわけで、手術をした方の多くの方は、2年ぐらいするとまたがんができてきて、「また手術しましょう」と言って、当初は2、3回手術をした方もいます。ただ、2、3回やっても、またできてくるということで、ついに切るところがなくなってしまって、という方がいるわけです。そういうことで、なるべく肝臓を切らないで治療をしていかなければいけないということが分かってきたわけです。

肝がん治療に関する最近の傾向

 そういう理由で、日本では局所治療がだんだん進んできました。肝がんが大きくなってしまったり、いろいろなところに出てきてしまったりすると手術しても取りきれません。こういう場合には、カテーテルを入れて、肝臓の動脈から腫瘍に行っている血管を兵糧攻めにしてまって、がんに行く栄養とか酸素を無くしてしまうことによって、がんをつぶすという形になります。ですからこの経カテーテル治療は、進行した肝がんにやる場合が多いです。

PEITとRFA

 昔は局所療法というとPEIT(エタノール注入療法)をやっていました。例えば、がんというのは1つの結節、被膜で覆われているところの外側に、小さな結節がある場合があります(図22)。そうすると、こういうところに針を刺してエタノールを入れていくと、図のように被膜の中には全部入っていくんです。ところが被膜の外の小さい結節には入っていかないということで残ってしまい、しばらくするとまたこの結節からがんが出てきてしまうということが多く見つかってきたわけです。そのために、なるべく広い範囲でエタノールを入れるわけですけれども、それでも再発してしまうということで、最近ではラジオ波でその周辺全体を焼いてしまうというラジオ波焼灼療法がPEITよりも成績がよく、小さながんを治療できるようになってきました。

ラジオ波焼灼療法

 現在この4月から、RITA社とRADIONICS社のラジオ波が保険適用になりました。RITA社のものは針の先から傘のように、もう1回針が出て、その針を中心に3センチぐらい焼けるタイプの展開型の針です。RADIONICS社のものは1本針ですけれども、この先端の3センチぐらいのところが球形に焼けます。おそらく全国でより普及しているのは、1本針のタイプであると思います。図23のような形で針の先端が焼けるわけですが、通常3センチ以内、3個以内を基準として治療をします。ただし、大きな脈管、あるいは胆道系、胆道の傍、そういうところでは水が流れている場所ですから、温度が下がってしまう。そのために、そういう脈管、胆道の傍では少し治療効果が落ちてしまうという欠点があります。

 実際にはこういうふうに(図24)、股にアースを張り付けて、腹部の外側から針を超音波で見ながら進めていって、がんの部位を焼きます。なるべく外側を大きく焼こうということで焼いた後、5ヵ月ぐらいすると、もうそこのところは瘢痕になって、焼いたところは小さくなってきます。

 1年ぐらい前のですが、60人ぐらいの方の成績をまとめますと、高齢な方は手術とか、侵襲の高いことをやれないので、この治療は高齢の方に多いのですが、4センチぐらいのものもやりましたけれども、腫瘍径による差で見てみると、2センチを超えないものは再発が全くありませんが、2センチを超えるものは再発が増えてきます。ですから、がんの大きさの大きいものに対しては工夫が必要だということです。

経カテーテル治療

 図25はアンギオCTといいまして、カテーテルで肝臓の中に造影剤を入れながらCTを撮っています。肝動脈から造影剤を入れてCTを撮ると、がんのところには造影剤がいっぱいたまって白く見えてきます。ところが今度、カテーテルを門脈のほうから造影剤を入れて見てみると、腫瘍にはこのように造影剤が入ってきません。本当の肝がんは、このように血液が肝動脈からしか入ってきていないのです。ですから、肝動脈からの血液を止めてあげれば、腫瘍だけを無くせるという発想のもとに、こういうところに綿みたいな詰め物をするというのがカテーテル治療です。

 1つ重要なのは、65歳以上と65歳未満で、カテーテル治療をした方の再発率に差はなく問題は無いのですが、年齢が高くなると治療後、副作用のようにALTが高くなってしまいます。このように年齢が高くなると、少し肝臓も傷つきやすくなっていますので、同じ治療をしても術後の反応が違うということを注意しながら、やさしい治療をしなければいけないということがあります。

凍結融解壊死療法

 慶應病院では全国で唯一、この治療(Cryoablation)をやっています。こういう機械で(図26)、左下図にありますように、針を水の中に浸けて治療をすると、針の周りに氷がついていますけれども、この針の周りに凍結、融解、凍結、融解と2回やることによって、組織が死ぬという原理で腫瘍を死滅させます。このように、凍傷になって、壊死して、脱落するわけです。ただし、このためには、右下図のように人の身長よりも高いボンベが2本と低いボンベが2本、ものすごい量のアルゴンガスなどが必要なわけです。こういうガスの管理について消防署がなかなか認めてくれず、やっと東京消防庁が認めてくれて慶應病院に入れることが出来て、こういう治療もできるようになっています。

持続的肝動注(5FU+IFN)

 いろいろ治療をやってきて、治療しきれない場合に、昔はほとんど治療がもうできないということであきらめていたのですが、大阪大学の外科で2週間IFNを打ちながら5FUという抗がん剤を持続動注するという治療が行われています。カテーテルとリザーバーという機械を入れて、そこから2週間点滴を持続動注して、2週間休んでまた2週間持続動注を繰り返す、というかなり大変な治療なんですけれども、それをやると50%ぐらいの人でがんが消えてきたという報告があります。現在全国数カ所でこの治療を進めているところですが、どうも抗がん剤+IFNの投与をしますと、がんの出てくる肝臓自体の環境が変わってきて、がんが進行しなくなるのではないかということが言われ始めています。

肝がん治療の基本的な考え方

 肝がん治療の基本的な考え方は、いかにがんのある部分を無くすかということです。無くすのには、手術でも、ラジオ波でも、エタノールでも、凍結治療で無くしてもいいんですが、その無くす範囲が腫瘍の大きさを十分超えて、マージンが取れて無くせるかどうか、これが一番の問題です。
 それから、残った肝臓がどのぐらいきちんと働いているか、手術はあまり進んだ肝硬変にはできません。局所療法はかなり進んだ肝臓の状態でも治療できるということ。それから手術すると、手術後は1ヵ月ぐらい仕事に行けないんですけれども、局所療法ですと、治療した次の日から仕事に出れるというような侵襲性の差もあります。
 それから、血管が腫瘍の中に入っているかどうか。入っていない場合には、手術あるいは局所治療でやらざるを得ませんが、血管が入ってきていれば、カテーテル治療ができる、ということで、手術と局所療法とカテーテル治療にはそれぞれの弱点と強みがありますので、それを組み合わせて治療をしていくということになります。
 肝がんの治療については、慶應病院ではその治療に一番適した方法で治療をしようというスタンスで、例えば治療をしない方もいますし、手術をする方もいるし、局所治療をする人もいるし、カテーテル治療をする人もいるし、といういろいろいらっしゃいます。こういう治療を組み合わせて最善の治療を考えていこうというスタンスでやっておりまして、もう来たら必ず局所治療だけでやるとか、あるいは来たら必ず手術をするという、そういうことはしていません。
 もう1つ見ていただきたいのは、最大腫瘍径によって局所療法の生存率にものすごい差があるということです。5年で径が1〜2センチであれば、50%になりますが、径がだんだん大きくなりますと、生存率が急に減ってきているということは、そこに十分なマージンが取れないで残ったがんが出てきているということを表しています。ですから、ラジオ波焼灼療法は侵襲が少ない、それから何回もできるということで、今だいぶやられていますけれども、やはり腫瘍の大きさ、あるいは場所をよく考えて治療法を選択しなければならないわけです。

肝移植

 外国では、肝がんに関しては、今はほとんど手術しないで、移植という方法で治しています。日本では、今年の4月1日から、肝硬変あるいは肝がんにも肝移植が保険適用になりました。我々の施設でも肝移植をしていますが、生体肝移植に至らない理由としては、感染症、心肺障害、脳障害に加えて、60歳以下という条件がありまして、肝がんの場合、かなりこの辺が問題になってきます。
 生体肝移植のドナーの条件についてですが、これが本人の意思であって、原則3親等以内。そういう形で今われわれの病院では、6月までの統計で、成人で42例の方が治療していますが、5年生存率は、子供の場合は大体80%。もらってくる肝臓が大人の半分の生体肝でもらってきますから生きがいいのですが、大人の場合は、大人の肝臓を半分もらっても、なかなか少ない場合があって、若干子どもよりも生存率が悪い。これは全国の平均ですが、成人ですと5年生存率が70%、そういう成績になっております。
 日本全体で、現在2200ぐらいの方が移植をしていまして、そのうちの成人で220例が肝がんで移植をしています。これが移植後の再発率です。3センチ以内3個以内、あるいは5センチ1個以内という基準がありまして、その範疇の人をやれば再発しにくいのですが、それ以上の方をやると、結構再発してくるというのが現状であります。

終わりに

 C型慢性肝炎というのは、だんだん肝硬変になって、がんができてしまうという残念な病気ですが、まず慢性肝炎の方は肝硬変に進まないようにウイルスを排除しましょう。もしウイルスが排除できない場合は、肝臓の障害がなるべく進行しないように、いろいろな手を打って遅らせる。あるいは肝発がんを予防するというふうに考えた場合には、IFNの長期投与もいいのではないか。それで肝臓がもし悪くなってしまって、肝がんができてきた方は、その治療法は1つの方法に限らずに、一番そのがんに合ったいい方法で治療して切り抜ける。そしてその後、発がんの2次予防のためにIFNをまたやっていく、そういうスタンスで治療を考えていくのが現状であります。
 ご清聴ありがとうございました。

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