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講演録
自己免疫性肝疾患について PBC & AIH
 東京慈恵会医科大学 助教授 銭谷幹男 先生

 去る4月4日(日)、文京シビックセンターおいて標記講演会と、PBCとAIHの2つのグループに分かれての交流会・相談会を開催しました。当日は銭谷幹男先生から自己免疫性肝疾患について最新の情報をお話しして頂きました。140号では参加されたみなさまの交流会・相談会の模様をお伝えしましたが、今号では講演会の内容をお伝えします。ご講演の内容を録音テープより起こし、先生には非常にお忙しい中、ご監修を頂きました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。

 その後、10月23日には自己免疫性肝炎の患者さんの体験交流会が開催され、11月6日(土)には原発性胆汁性肝硬変の患者さんの体験交流会が開催される予定です(巻末に案内)。今後とも、自己免疫性肝炎部会、原発性胆汁性肝硬変部会の活動にご期待下さい。

はじめに

 本日は自己免疫性肝疾患、特に自己免疫性肝炎と原発性胆汁性肝硬変についてお話いたします。自己免疫性疾患というのは本来外的から身を守る免疫機構が、自己の細胞に向かって、自己を破壊することによっておこる病気です。当然、自分の細胞が壊れては困りますから、こうした免疫反応は起こらないように調節機構が存在し、通常は自己に対する免疫反応は起こらないような仕組みになっています。違う表現をすれば体を守る免疫は自己と非自己を見分けて非自己に対して必要な免疫反応を起こし、排除するということになります。では、どうして本来免疫応答がおこらない自己に対する免疫反応が起こってしまうのでしょうか。この詳しい仕組みは実はまだよくわかっていません。この仕組みがはっきりすれば、自己免疫疾患の治療は不都合が起きている仕組みの部分を直せば良い事になりますが、これがはっきりしないため、多くの自己免疫疾患は難病として治療が困難とされているのです。

 自己免疫が身体のなかで起こっている場合は免疫が増強しているわけですが、それでは風邪にかからないかというと、そんなことはありません。自分に対する免疫応答の制御が乱れているのであって、他の免疫はまだ普通なのです。ですから、他の感染症には普通にかかってしまう。ところが、自分に対する免疫応答だけが強く起こっているのです。

 免疫というのは、1つの特徴として特異性というものがあります。例えば、はしかにかかったら、もう次ははしかにかからない。しかし、はしかにかかって治ったからみずぼうそうにはかからないことはないわけです。ということは、1つのものに対して特異的に反応することが免疫の特徴です。

3つの自己免疫性肝疾患

 この免疫の特徴は、自己免疫性の肝疾患にもあてはまります。3つの自己免疫性肝疾患はそれぞれ免疫の標的が違うわけです。自己免疫性肝炎というのは肝細胞が標的です。ですから肝細胞に対して自分のリンパ球が働いて壊れてしまう。原発性胆汁性肝硬変という病気は、肝臓から胆汁を出す胆管というものに対して免疫応答が起こるのですが、全部の胆管には起こりません。肝臓の小葉という肝臓の細胞の集まりがあって、その集まりの間に胆管が来るのですが、その小葉間胆管というところだけに反応して、そこの部分の胆管だけが壊れるというのが原発性胆汁性肝硬変という病気です。

 原発性硬化性胆管炎というのは、肝臓の内外の胆管に対して免疫応答が起きる。ですから同じ胆管が壊れるのでも、胆管の場所によって免疫の反応が違うわけです。そういう自分の特殊な細胞だけにリンパ球が反応して壊してしまうというのが、この自己免疫性肝疾患の病態ですが、どうしてそういうことが起こるかは原因不明なのです。

自己免疫性肝炎

 自己免疫性肝炎というのは、自分の肝細胞に対して自分のリンパ球が反応して自分の肝細胞を壊してしまうという病気です。これは実は肝炎ウイルスが感染していても起こっていることなのです。C型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスが肝臓に感染したからといって肝臓の細胞は壊れないのです。いずれの場合もキャリアといって、感染はあるけれども肝臓はまったく壊れないという病態が存在するわけです。ところが肝炎ウイルスは、肝臓の細胞だけに入って増えてくるウイルスですから、肝炎ウイルスと言われているわけです。肝炎ウイルスが入ったことによって作られていたタンパクとか、そのウイルスが入ったことによって肝細胞が変化して、自分の細胞なのだけれど自分の細胞とはちょっと違ったものになってしまう。それは自分にとっては異物ですから、免疫は反応して肝臓の細胞を壊すわけです。ですからウイルス性肝炎においても免疫が肝炎を起こしているのであって、ウイルスが肝炎を起こしているのではないわけです。

 ところがウイルス肝炎の場合には、原因はウイルス感染だから、ウイルス感染をなくせば免疫反応を起こすものはなくなってしまうから治るのですが、自己免疫性肝炎は、原因が何だかわからないけれど、肝細胞に対して反応しているのですから治らないわけです。体質が変わらない限りは治らないということでちょっと厄介なのです。

日本の自己免疫性肝炎の特徴

 わが国の自己免疫性肝炎は欧米の自己免疫性肝炎とちょっと違うところがあって、これは皆さんにとってはいいことです。

 日本ではHLA―DR4というものが体質因子として重要なのですが、海外ではHLA―DR3というものが体質因子です。海外では、若い方に自己免疫性肝炎が多いのです。HLA―DR3陽性の患者さんは、振興が早く、病態が比較的重篤であることが特徴です。幸いなことにこのHLA―DR3の型の人は日本人にほとんどいないのです。日本人はDR4を持った人が一番多くおります。欧米でHLA―DR3が陰性の患者さんを調べると、HLA―DR4を持っている患者さんが多く、このHLA―DR4は第二の疾患感受性遺伝子とされています。

 実は日本ではこの2番目の体質因子の上に自己免疫性肝炎は発症しています。2番目の体質因子であるHLA―DR4を持っている自己免疫性肝炎の患者さんの特徴は、若年ではなくて中高年に多い。そして比較的病気の進行はマイルドである。要するにDR3陽性の人に比べて激しくない。一番いいことは、皆さんは嫌がるのですけれど、副腎皮質ステロイド(プレドニン)の効果がDR3陽性のものに比べると非常によろしい。要するに治療しやすいという特徴がございます。

自己免疫性肝炎の診断がつくようになったわけ

 自己免疫性肝炎はこういう形で起こってくるわけですが、日本人では中高年に起こるというのが今の話でわかると思います。比較的マイルドです。マイルドであるということは、B型、C型肝炎の患者さんとほとんど同じで、症状はあまりないのです。ですから発見されにくい。以前は、日本では自己免疫性肝炎はあるのかないのかわからないぐらい少なかったのです。これはなぜかというと、20年以前には中高年の女性が血液検査を受ける頻度は非常に低かった。ところがこの20年ぐらい、主婦健診など、いろいろな健診で血液検査をしてみたら、結構いるじゃないかという話になってきたのです。ですから日本でも自己免疫性肝炎はあるということになりました。ほとんどが無症状で、血液検査をして肝機能に異常があるということで発見されています。

 日本では慢性肝炎というと7、8割がC型肝炎ウイルスキャリアですから、以前、C型肝炎ウイルスがわからないときは自己免疫性肝炎かC型肝炎かわからなかったのです。どちらだかわからない。ところがこの10年間でC型肝炎の検査がきちんとできるようになりました。症状がなくて、血液検査をして、どうやら慢性の肝障害らしい。それがウイルス肝炎でないとなれば、これは自己免疫性肝炎の疑いがかなりあるということで、この10年で診断は非常にやりやすくなりました。診断される方はどんどん増えているのです。しかし、決して患者さんが増えているわけではないということです。患者さんは元からいたのですがわからなかった。相当に肝障害が進んでしまって、肝硬変になって腹水がたまってきてから病院に行ったときには原因がわからず、もう手遅れになってしまった。ということで、今までわからなかったのですが、ウイルス肝炎の診断がきちんとできるようになったことと、中高年の女性が血液検査を受けて肝障害があることがわかるようになったので、診断がつくようになったのです。

自己免疫性肝炎の症状と合併症

 日本の自己免疫性肝炎は非常にマイルドですから、私どもの病院に来る自己免疫性肝炎の患者さんのほとんども、やはり症状がないことが多いです。症状があるとするとちょっとだるいとか、ちょっと食後にもたれる感じがあるとか、軽い症状がある方がいらっしゃいます。

 それから、自己免疫性肝炎というのは、他の自己免疫性疾患を合併することが多いです。肝臓に対する免疫の制御が乱れたのですから、その乱れが他の臓器に対しても波及すると、その臓器にも自己免疫性疾患が起こってくる可能性があるわけです。起こりやすい臓器は関節と甲状腺です。ですから慢性関節リウマチとか慢性甲状腺、いわゆる橋本病と言われるものを合併する人がかなりいらっしゃいます。また、シェーグレン症候群というのは、唾液腺や涙腺などの分泌腺に対して特異的に免疫応答が起きることもあります。原因はみな同じなわけです。たまたま自己免疫性肝炎は肝細胞に対して起こってくるということです。

自己免疫性肝炎の診断

 原因不明の慢性の肝障害があって、ウイルス性肝炎など、わかっている原因が否定されるという場合に疑います。特徴は自己免疫応答の結果として現れる血清中に見られる自己抗体、抗核抗体とか抗平滑筋抗体というものが陽性なのです。それと免疫応答の現れであるγグロブリン、あるいはIGGが高くなる。これらはすべて免疫異常があるということです。

 肝機能検査ではありませんが、血沈が早くなるとか、あるいは炎症で出てくるCRPが陽性となるということもあります。たまには、甲状腺機能低下症だと思っていて、ずうっと検査していたところ、血液検査で肝機能異常が出て、自己免疫性肝炎がわかってしまったという方もいらっしゃいます。こういう方の場合はどちらが主体なのかと、非常に困るわけです。病気が合併しているときには、それぞれの治療を独立してやってもだめで、病気を持っている人は1人ですから、同じ人が2つの体を持って、こっちの病気、こっちの病気とあるわけではないので、両方総合的に考えられるような形で診ていく必要があると思います。

 さて、自己免疫性肝炎は一般的には7割から8割の方は無症状で、比較的中等度のGOT、GPT上昇ぐらいで経緯するので、診断がきちっと確定すれば治療が容易です。診断の確定はどうするかというと、実は原因不明ですから診断確定はなかなかできません。C型肝炎だったらC型肝炎ウイルスが見つかれば診断確定になりますが、原因がわからないものだから、「免疫異常がある」ということでは、肝細胞に対する特異的免疫異常をきちっと調べる検査というのは現在はありませんからわからないわけです。

 実際にはどうするのかといいますと、日本の診断指針でも示していますが、皆さんあまり好きではない肝生検をするわけです。肝臓の組織を採って診ると、この組織はウイルス性肝炎とはちょっと違います。要するに肝炎の活動性が比較的高くって、普通の肝炎では見られない形質細胞、プラズマ細胞というものがよく浸潤していて、ウイルス性慢性肝炎で見られる門脈周域の炎症に比べて肝臓の小葉、肝臓の細胞の周りの炎症が強い、肝臓が壊れていく頻度が少し高いという特徴があるのです。原因が不明で、血液検査をするとそんなに悪くないけれど、組織を診るとかなり強い炎症がある場合には自己免疫性肝炎と診断がつくし、肝生検のいい点は、その時点で病気がどのレベルにあるかわかることです。

 自己免疫性肝炎は肝機能異常がたまたま発見されたりして発症して診断されるので、発症した場合、病気が何年前からあったのかわからないわけです。肝障害の山の頂上を肝硬変と見立てたとき、自分がどこにいるかわからない。肝生検をすると線維化の程度、炎症の程度がわかりますから、自分が今、山のどこにいるかわかります。となると、どの辺の治療をしていけばいいかということがわかるわけです。

 ですから、何も診断が決まらないから肝生検をするんですよというふうにおっしゃいますが、診断だけではなくて、今後の治療とか、皆さんの生活を考えていく上で肝生検は非常に大事です。山の頂のどこにいるのか。例えば、8合目にいるんだとしたら、登山口にいる人とはやはり治療の対応は違うわけです。注意のはらい方も違う。ですから、その辺は、たかだか外来の短い時間でこのような説明はなかなかできないのですけれど、肝生検をしましょうというお話しをした場合には、いろいろな思いを込めてお願いしているのです。ですからあまり嫌がらずに肝生検をしていただきたいと思います。

自己免疫性肝炎の治療

 それで肝生検をすると、これは自己免疫性肝炎と決まります。そうなったら一般的には、先ほど言いましたようにわが国の自己免疫性肝炎は副腎皮質ステロイドが非常に効くので、これを使います。これを使うとほとんどの人は1カ月以内には効き目が現れて、GOT、GPTはほぼ正常化します。正常化してやめてしまうとだめなのです。正常化して1年ぐらいたって、もう一度肝生検をさせて頂きますと、実は組織はまったく変わっていないという人がいるのです。要するに血液検査での正常化と、免疫が起こっている肝臓の炎症は乖離しているのです。ですから、薬を何年も使って、肝臓の中も本当にきれいになったよということを言わないと、治ったかどうかわかりません。ですから皆さんも薬を使って減量しても、長く使っていると思いますが、これはまだくすぶっているからです。くすぶっているのと同時に、体質的に起こりやすい人に起こっているのですから、きっかけがあるとまた起こるのです。ですから、ある程度そういうきっかけがあっても起こらないように抑えるためには、少量使わなければいけないかもしれないです。これが大事なのですが、残念ながら副腎皮質ステロイド(プレドニン)には副作用があります。

 どういう副作用があるかというと、にきびが出る、顔が丸くなる、いかり肩になる、糖尿病になる、骨粗しょう症になる。感染症にもなりやすくなる。皆さん、非常にこれを危惧していろんなことを言われます。しかし病気が悪くなるということと比べたら、プレドニンを使って自己免疫性肝炎が制御されて病気が進展しないということのよさに比べたら、そういう不利な点は本当は小さいのです。病気がどんどん進んで肝硬変になった方がはるかに大変なのです。しかしそのときにはわからないのです。特に、糖尿病になるとか、顔が真ん丸くなるのは絶対嫌だという話になるわけです。

 しかしそうは言っても、これに替わるあまりいいお薬はないのです。第二世代のステロイド(プデノオシド)というのはもう出ています。これはそういう副作用が比較的少ないと言われているのですが、もちろん保険は通っていません。これが本当に自己免疫性肝炎にいいかどうかということは実はわからないのです。もともと自己免疫性肝炎の患者さんはそんなに多くない。多くないから薬屋さんとしては商売にならないのです。C型肝炎の人は200万人ですから、これはすぐ開発しようということになるのですが、少ないので商売にならないから一生懸命開発はしてもらえません。

 ですから、こういう薬を開発するときはどうするかというと、患者さんと僕らで協力して、こういういい薬が出たから、皆さん、2つのグループに分かれて薬を飲んでみましょうなどということをやらないと開発はできないのです。今後はそういうことを考えていかないと、次の世代につながるお薬は出来ないということです。要するに難病と言われる少ない病気は、なかなか経済論理からいくと日の光は当たらない。そういうわけで、当面はプレドニンを使うのですが、プレドニンを凌駕するような薬を作るのは非常に難しいと思います。というのは非常によく効くからです。副作用を別にすれば非常によく効くからです。ただし、日本では中高年に多くて、そんなにひどい自己免疫性肝炎の患者さんがいないということなので、ウルソデオキシコール酸(ウルソ)という薬を併用すると、維持量のステロイドを減らせることがはっきりしてきました。

 これについては3年前から臨床試験をやりました。80症例の予定が、20例しか集まりませんでしたので、残念ながら、科学的根拠がでません。しかし、20例はすべて、ウルソを加えることによって良好な経過が得られています。

 ですから科学的根拠はないけれども、臨床的事実として来年度に発表いたします。これは多分適用外処方ができるようになると思います。これは1つの功労です。

 もうひとつはGOT、GPTが100以下で非常に軽ければ、ウルソ単独でいいんじゃないか、副作用が多いステロイドを使わなくてもいいんじゃないかということで、3年前から、60症例の試験研究をやって、初期に発見されたときに非常に軽いから、ステロイドを使わずにウルソだけでいきましょうという検討をしたのですが、15例しか集まらなかった。15例のうち6例は僕の患者さんなのですけれど、その6例の患者さんは全部コントロールできました。

 本来は、科学的に、統計学的に根拠を示さねばならないのですが、症例数が必要数集まらずに、示すことができませんでした。しかし、良いデータが出たことは事実としてお話ししました。

 そうすると単純に副腎皮質ステロイド(プレドニン)は非常に有効で、その特効薬をすぐ使わなければいけないけれども、場合によってはそれを減らす、あるいは代替してウルソを使うことができるということまではわかってきました。

 最近こういうことで治療法も少しは進展しています。幸いなことに自己免疫性肝炎の患者さんはコントロールが比較的いいので、うまく薬をきちんと使っていけば進行はなくて、トランスアミナーゼが40以下、ほぼ正常にコントロールされていれば、その人たちの生命予後は病気のない人と同じです。まったく変わらないのです。

 ところが途中で薬を嫌だと言ってやめてしまったり、何らかのきっかけで急に減量したりして、再燃して増悪するということが起こってくると、薬が効かなくなります。こうなるとステロイド抵抗性になって、病気がどんどん進むようになって、あっという間に肝硬変になることがあります。そういう場合にはステロイドに替えて免疫抑制効果のあるアザチオプリンというお薬を使いますが、それでも効かない場合があるんです。こうなるとなかなか大変で、きちんと診断してきちんと治療することが大事なのです。いったん治療してそれを抜いてしまって再燃すると、なかなかコントロールがしにくくなって、そうなると病態が進んでしまう。

 病気が進みだして肝硬変に至ると予後は不良です。肝硬変に至ってどんどん悪くなりますと、これは原因不明でどんどん悪くなっているわけですから、明らかに予後は悪いわけです。そういう場合には、現状では唯一、肝移植が適用になります。これしか、今、治療法がありません。残念ながら原因が不明なので、進んでしまって不可逆的になった病態としては、それしかないというのが現状です。

 ただし、先ほど言いましたように、日本の自己免疫性肝炎の患者さんは比較的穏やかな病態ですから、きちんと診断してきちんと治療を受けること。これが一番大事です。決して自己判断しない。発見されたとき、もともと症状がないのだから、調子がいいからやめるなんてことは当てはまるわけがない。発見されたときわからないのに、薬を使っていいか悪いか、どうしてわかるのだということを僕は言いたい。やめるのだったら、嫌でもやはり肝生検はした方がいいです。薬をどうしてもやめたいと思ったら、肝生検をして肝臓内に炎症のかけらだにないということであればやめられます。

 僕は80人以上、自己免疫性肝炎の患者さん診ていますけれど、治療をやめた人が2人います。2人とも2回肝生検しました。1回目でやめられるかなと思ったけれど、ほんのちょっと疑いがあったので、2年後もう一度肝生検をさせていただいて薬をやめました。この方は大丈夫です。今でも薬を使っていません。その代わり病院には定期的にきちんと来ています。体質は同じですから、病気が治っても顔は変わらない、体は変わらないわけですから、当然やらなければいけないのですが、しかし薬を飲む必要はなくなりました。

 自己免疫性肝炎はこの他に、最近、急性肝炎様で発病する人が増えておりまして、急性肝炎で起こってくるときは、IgGが上がるとか、自己抗体が上がるということもないです。診断がなかなかできないです。非常に致死率が高い劇症肝炎の原因としても自己免疫性肝炎が存在するということも厚労省の統計でわかってまいりました。

 こういった方をどうやって早めに診断するかということで、今、僕らは苦慮しているわけですけれども、女性で、非ウイルス性で、急性肝炎で重症の黄疸だった場合には自己免疫性肝炎を念頭に置いて診断を進めるということを、去年から私どもは一生懸命啓蒙しております。それでも、残念ながら去年も劇症肝炎で、最終的に自己免疫性肝炎でお亡くなりになった患者さんがおられます。

 何を言いたいかというと、急性肝炎発症で劇症肝炎になるということは、治療中断をして急激に悪くなるときにはものすごく悪くなっていることがあるわけです。ですからこれは、今治療をしている方に対しても警鐘であって、きちんと病院へ行って薬を飲むということの重要性を示しているということを、自己免疫性肝炎のお話としては最後に加えておきたいと思います。

原発性胆汁性肝硬変

 日本では、原発性胆汁性肝硬変の患者さんの数は、自己免疫性肝炎の患者さんの数に比べて約2倍の2万人から3万人いるといわれています。

 この病気は、肝臓内から胆汁を分泌する胆管という管、それも小葉間胆管という管に免疫応答が起きることによりその胆管が壊れるために、胆管が詰まってしまって胆汁の流れが悪くなるという病気です。結果として起こるのは、胆汁うっ滞性の肝硬変です。胆汁が流れない。要するに下水が詰まっている状態です。下水が詰まって汚水が外にあふれてくるから肝臓が悪くなる。結果的に、逆流によって肝臓の細胞が壊れて肝炎と同じ状態になって、最終的に肝硬変になるという病態です。以前は、肝硬変になったときにその原因がわからない病気があるということが発見されて、原発性胆汁性肝硬変と名前が付いたわけです。

原発性胆汁性肝硬変の診断

 この病気を調べていろいろ診断していくと、非常に興味深いことがわかりました。特徴的な自己免疫現象の現れである自己抗体があります。皆さんご存じの抗ミトコンドリア抗体という抗体です。この抗体は原発性胆汁性肝硬変で90%、多分95%以上が陽性です。他の肝疾患では陽性になることは非常にまれです。ですから、肝臓の障害があって抗ミトコンドリア抗体が出れば、原発性胆汁性肝硬変ではないかということを疑って、6割か7割が当たっています。なぜ100%に近くないかというと、自己免疫性肝炎の患者さんの中の10%が、抗ミトコンドリア抗体が陽性になっているのです。ですから、診断する場合にここが困るわけです。

 抗ミトコンドリア抗体が陽性の場合には原発性胆汁性肝硬変をかなり疑っていい。しかも胆汁うっ滞の所見があればほとんど間違いがない。もちろん原因不明ですから、これ以上診断は不都合があります。どうしてかというと、肝生検で、特徴は小葉間胆管の特異的障害ですから、組織学的に顕微鏡で小葉間胆管のところを診て、そこだけが壊れていれば診断は確定です。組織学的に慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)が証明されれば原発性胆汁性肝硬変という診断は確定されるわけです。

 肝生検をすることによって、病気の診断がつくと同時に、慢性肝炎の始まりから肝硬変のどこにいるかということ、すなわち線維化の程度がわかります。このように、原発性胆汁性肝硬変の場合には、小葉間胆管という非常に限られた部分だけの免疫応答なので、肝生検を診るとかなりわかります。しかし、問題もあります。この小葉間胆管というのは、肝生検で必ずしもつかまってくるとは限らないという問題があります。肝生検では、たまたまそこを採っても小葉間胆管は入らない可能性があります。その1ミリの幅の小さい生検の標本から30枚以上連続で切片を作ると小葉間胆管がとらえられます。

 皆さん、30枚って簡単に思いますが、保険の点数は1枚分しかもらえないですから、研究レベルでやらないと誰もやってくれないのです。相当専門的にやっているところへ行かないと、必ずしも診断がつきません。しかし運がいい人は、1枚採ったらそれが見えて、1枚で終わりということもあります。ですから、診断がつかないからといってあきらめてはいけない。もう一遍標本を作り直してやれば診断がつくかもしれません。

原発性胆汁性肝硬変の症状

 さて原発性胆汁性肝硬変は胆汁が流れないですから、そのことによりどういうことが起こるかということがあります。胆汁は肝臓から分泌される消化液で、特に脂肪を溶けやすくして吸収しやすくするものです。それが出なくなるのですから、脂肪の消化吸収が悪くなる。胆汁うっ滞が起こると、脂肪の消化吸収が悪くなるのです。どうなるかというと、脂溶性、すなわち油に溶けるビタミンの吸収が悪くなります。例えばビタミンDとかAとかEです。特にビタミンDは骨をつくるのに重要ですが、この吸収が悪くなります。原発性胆汁性肝硬変は、自己免疫性肝炎と同じようにやはり中高年以降の女性に多くて、半分ぐらいの人は閉経後です。閉経後は骨粗しょう症が起こりやすくなるのですが、その時点で胆汁うっ滞、胆汁の流れが悪くなるとビタミンDの吸収が悪くなるので、骨が非常に弱くなります。このように、原発性胆汁性肝硬変という肝臓の病気であるにもかかわらず、一番困るのは骨の病気が悪くなることです。

 他にどういう症状が起こるかといいますと、当然体から排泄される、油に溶けて排泄されるものは、胆汁が流れないので出なくなるので、胆汁酸というのが体の中に増えてきてしまう。ひどくなると黄疸になったりするわけです。そういうものが血中に増えるとかゆみが出ます。必ずしも全員に出るわけではないのですが、出る人は非常に強いということが特徴です。夜眠れない。これは胆汁の流れが悪くなったためと思われるのですが、その原因物質は残念ながらわかりません。ですから現在、根本的治療はありません。胆汁の流れがよくなればいいのですけれど、管が詰まっているのですからよくなりません。ですから対症療法でかゆみを抑える。かゆみを起こす神経を刺激するような物質を抑えるとか、精神的な安静でかゆみを抑えるとかっていう方法しかありません。これはちょっと注意していただきたいのですけれど、かゆいからかくと皮膚には刺激が加わりますから、その刺激でますますかゆくなります。このようにして悪循環になります。このかゆみが出るのが特徴です。

 この他にコレステロール、これは油ですから、当然胆汁中に出るのですけれど、これが出なくなりますから、血液中のコレステロールが非常に高くなります。高くなると、皆さんご存じのように成人病等に高脂血症というのがあります。目の周りとか体の柔らかいところに黄色い斑点が出来る。黄色腫というのが出来たりします。ですから、食べ物が悪いわけではないのですが、高脂血症、高コレステロール血症が起こって、コレステロールが体に蓄積してしまうということがございます。

 この他胆管がどんどん詰まってくると黄疸が起こってきて、黄疸は腎臓に対して負荷を持っています。水に溶けないものが血中にあるわけですから、腎臓に負担がかかって腎臓が悪くなる場合もあります。

 この他原発性胆汁性肝硬変では、やはり自己免疫性疾患ですから、自己免疫性肝炎と同じように他の自己免疫性疾患を合併します。先程と同様に、リウマチとか慢性甲状腺炎があるのですが、特に多いのは胆管の小葉間胆管という胆汁を出す管の障害と言いましたが、同じ管で、涙管とか唾液腺管などの分泌管が障害される病気の合併が多いです。これをシェーグレン症候群といいます。口が乾いてしまう。目が乾いてしまう。それから陰部の乾燥というのもあります。いろいろなことで非常に不都合です。口が乾いてしまうのでうまく物が言えない。食べてもまったくおいしくない。口が乾いて舌が乾いてしまうために味が変になってしまうなどがあり、日常生活上、非常な不便になります。

 最近、唾液腺の分泌を促すというお薬が開発されて、臨床でももう使われています。エポザックという薬です。意外と副作用はありません。気持ちが悪くなるという人がたまにはいますが、唾液が非常によく出るようになります。唾液は出るのですけれど、他の分泌腺がどんどんよくなってくるかはまだわかりませんが、少なくとも管に障害があるものに対しての回復をしているわけですから、悪い理由はない。長くやれば効いてくる可能性は十分あると思いますので、これはPBCの患者さんにとっては1つ進歩だと思います。

肝硬変への進展と治療について

 先ほど言いましたように、胆汁にうっ滞があると、胆汁があふれてきますから肝臓の障害が起こってくるわけです。時にはその肝障害が強くなって、原発性胆汁性肝硬変の患者さんであっても自己免疫性肝炎のように、GOT、GPTが急激に上がる場合もあります。これは臨床的に自己免疫性肝炎の合併なのだろうかとか、混合型なのだとかいろいろ言う人もいますけども、現実には、もし原発性胆汁性肝硬変の診断が確実であるならば、原発性胆汁性肝硬変の人に認められた強い肝細胞障害ということで説明がつきます。こういう障害が起こるから肝硬変に進展していくわけです。

 放置すればどんどん進みますからどうすればいいかというと、このときは一時的にステロイド(プレドニン)を使うと非常によく下がります。

 しかし、原発性胆汁性肝硬変の患者さんはプレドニンを長く使ってはいけません。なぜならプレドニンは骨粗しょう症を起こすからです。原発性胆汁性肝硬変は、胆汁うっ滞があるためにビタミン群の吸収が悪く、また、患者さんのほとんどは中高年の女性で骨粗しょう症を起こしやすい。それでGOT、GPTが急激に上がったらステロイドを使いますが、使ったら早めに切り上げるべきです。これは覚えておいてください。要するに原発性胆汁性肝硬変の患者さんで、GOT、GPTが上がってコントロールが困難なときにはステロイドは良く効きますが、短期間でやめなければいけません。しかし短期間使って早めにやめることで、この薬をうまく使った方が病気の進展に対してはいいわけです。もたもたしているとその間に肝臓が壊れて、線維化が進んで肝硬変の方へ進んでいくわけですから、やはりそういう治療はした方がいいと思います。

症候性と無症候性について

 抗ミトコンドリア抗体が陽性で、胆道系の酵素(胆汁の流れが悪くなるときに流れる酵素)であるアルカリフォスファターゼ(ALP)が強く上がってきて、当然γグロブリンが上がるのですが、その中で特にIGMというタンパクが上がります。それで原因が不明という状態であれば原発性胆汁性肝硬変を強く疑って、肝性限定小葉間胆管の障害があるということでしたら診断がつくということは先程お話ししました。

 実は原発性胆汁性肝硬変の中には2種類の人がいることがわかっています。1人は原発性胆汁性肝硬変であって診断がつくし、病気が進んでいる人。もう1人はまったく症状がなくて、組織学的に検査をすると胆管の障害はあるのだけれど肝障害は非常に軽微で、まったく進んでないという人です。要するに診断がついたけれどもまったく進まないという人がいる。ウイルス性肝炎でいうとキャリアの状態です。ウイルスに感染はしているけれど病気にならないと同じく、原発性胆汁性肝硬変だけども進まない。日本ではこれを無症候性と言っているのですけれども、症状はもちろんないのです。そういう進まないという人がいるということがわかったわけです。ですから、自分がどちらかということを判定していただくのが非常に大事です。

 ただし、無症候性がずうっと無症候性でいくかどうかというのはわからないのです。無症候性の方をずうっと追いかけていると、そのうちの何割かは途中で症候性になってきます。しかも原因が不明ですから、どの無症候性の人が症候性になるかはまったくわかりません。ですから無症候性であっても病院から離れるわけにはいかないのです。無症候性であっても病気はあるのですから。

 もうひとつ、無症候性と言われても注意していただきたいことがあります。ウイルス性肝炎でも肝硬変になると一時的に、データがみんなよくなることがあります。原発性胆汁性肝硬変でもデータがほとんど正常だから多分無症候性でいいねと言われても、実は初期の肝硬変だったり、既に8合目だったという状態で無症候性と言われている可能性もあるのです。ですから肝生検をするなり、画像診断をきちっとやることは非常に重要だと思います。

 わが国では、保険医療の関係があって、黄疸があるとかかゆみがあるという人を症候性といって、それ以外の人を無症候性といって、国庫補助の対象で区別していました。しかし去年から厚労省の定義は変わりました。食道静脈瘤があるとか、腹水がたまるとか、浮腫があるという人は、他の症候がまったくなくても症候性として、疾病として取り扱うということになりました。

食道静脈瘤について

 原発性胆汁性肝硬変の患者さんは、肝臓の病態があまり進まなくても脾臓がはれてくることが多いです。脾腫が多く見られます。脾臓はリンパ球がいっぱい入っている臓器ですから、当然免疫応答が起こって脾臓がはれていると思われますが、この原因は不明です。脾臓がはれると、脾臓には血液がいっぱい流れるようになります。この脾臓の血液は全部、門脈という肝臓に入っていく血管に流れていくので、門脈を流れる血液が多くなります。結果として門脈圧亢進症が起こるので、肝臓が血液の流れをすべて処理できなくなって他の部分に流れることが起こると、食道静脈瘤ができてしまうのです。普通は肝硬変になって、肝臓に血液が流れにくいために脾臓がはれて、結果的に門脈圧亢進症が起こって食道静脈瘤が出来るのですけれども、原発性胆汁性肝硬変では、肝臓はあまりそこまで悪くないのに脾臓がはれたために門脈圧亢進症が起きてきます。ですから原発性胆汁性肝硬変の場合には、食道静脈瘤があるからといって必ずしも肝硬変とは限りません。ですから脾臓を取ってしまえば、門脈圧亢進症がなくなる場合があります。もちろんそれはリスクがあるからすぐにはやりませんが、僕も何人かの患者さんでは血管造影で脾臓の血管を詰めたこともあります。詰めると、脾臓に行く血液が減りますので、門脈圧亢進症は減ります。切除手術をしないで治るという場合もあります。肝臓は肝硬変でなくても食道静脈瘤が出来てきてしまうのです。食道静脈瘤が出来てしまい、これが破れると吐血による大出血によって貧血になります。肝臓は低酸素に非常に弱いです。出血をして肝臓を流れる血液が減って酸素が減ると、もともと肝臓は胆汁うっ滞があって悪いですから急激に悪くなります。ですから食道静脈瘤があって消化管出血を起こすと、その段階で肝臓のランクが1ランク悪化してしまいます。ですから静脈瘤の出血はしてはいけない。前もってきちんと予防することも大事です。

 原発性胆汁性肝硬変の方は内視鏡、超音波、CTなどの検査をきちんとやらなければいけないのです。脾臓がはれていないか、門脈圧亢進症がないか、静脈瘤が出来ていないかということをきちんきちんと確認していかなければいけません。こういったことは、ウイルス性肝炎では肝臓の病態が進んでくると起こるのですが、原発性胆汁性肝硬変の患者さんはそれとはまったく関係なく脾臓の血流だけ上ってきますから、血液検査ではわからないのです。ですから、原発性胆汁性肝硬変の患者さんは画像の診断をきちんとやっていくということが大事だと思います。

原発性胆汁性肝硬変の治療

 自己免疫性肝炎と同じように原因はわからないですから、きちんとした治療法はありません。しかしこの病気にはウルソデオキシコール酸(ウルソ)という薬が良く効きます。これは水に溶けやすい胆汁酸で、胆汁の分泌をよくさせる作用が強く、なおかつ細胞を保護する働きがあります。この胆汁酸を飲むと、人間の体の中にある胆汁酸のほとんどが新しく飲んだウルソデオキシコール酸という胆汁酸に置き換わって、なかなか出ない下水の出を少しよくして、しかも置き換わった胆汁酸は細胞の保護作用があり、肝臓が壊れるのを防ぐという働きがあるので非常にいいわけです。

 実際に原発性胆汁性肝硬変の患者さんにこのウルソを使いますと、上昇していた胆汁うっ滞を表すアルカリフォスファターゼやγGPTという酵素が非常によく下がるということが経験されたわけです。

 88年からの厚労省の班会議で皆さんにご協力いただいて、臨床試験(二重盲検)をやりました。患者さんを2つのグループに分けて、一方はウルソ、片方はウルソと称して何も入ってない薬(プラセボ)を飲んでもらいました。60の症例が集まり、日本でも原発性胆汁性肝硬変のアルカリフォスファターゼやγ―GPTの低下に明らかに効果があるということを証明できました。

 しかしこの二重盲検試験は7カ月で打ち切られました。なぜかと言うと、使わない人と使った人の利害があまりにもはっきりしすぎて試験をするまでもない。使った方が明らかにいいので、このまま1年間この試験を続けることは人道的に無理があるというので、やめたのです。そのぐらい効果があったわけです。

 実際に、今ほとんどの方はこのウルソを使っていると思います。これは面白いことに、1日量600ミリグラムを使うと効くんです。それより少ないと効かないのです。1錠100ミリグラムを1日6錠です。日本では保険の制度でものすごく安い薬になりました。ウルソをヨーロッパに持っていきますと、5倍ぐらいの値段になります。いい薬ですから非常に高いのです。日本では安いのです。皆さん、ラッキーですから。非常に安くていい薬に巡り合いました。

 それから去年、ウルソを10年間使ってみてどうかという結果が出ました。ほとんどの人が使っていて、使っていない人がいないため比較ができないのですが、以前の10年間で肝硬変、肝不全になって死亡になった人の率と、この10年間を比べると、この10年間では、肝硬変に進展して具合が悪くなった人は5分の1になっています。ということは、ウルソを使うと、ただ単に血液検査の成績がよくなるだけではなくて、予後も多分いいであろうということがわかります。ですからずっと飲み続けるということが必要だと思います。この薬はほとんど副作用がありません。多く飲むと下痢をするという方がいらっしゃいますけれど、一般に便秘の方が多いからちょうどいいのではないですか。ということで飲んでいただいているのですけれども、あまり大きい問題はございません。

 それと、これは私どもの研究ですけれども、ウルソを飲んだときに血液にウルソが存在する濃度ではまったく免疫の作用はないのです。ところが肝臓は胆汁酸を排泄するのですから、肝臓だけでは血液中の約10倍濃度になります。ということは、プレドニンは全身に同じ濃度で回りますが、ウルソは肝臓だけ10倍濃度、肝臓内だけの免疫を調節する作用があるのです。こんなにいい薬はないのです。

肝移植

 不幸にも、食道静脈瘤が破裂したり、あるいは線維化がどんどん進んで肝硬変になる場合もあります。この場合は、胆汁うっ滞などの肝硬変なので、ウイルス性肝炎で肝硬変になった場合よりも黄疸が非常に高くなる。20、30まで上がってしまうわけです。やはり肝不全になることが多いのです。ということで、残念ながらこの状態になると、やはり治療法はございません。現在では肝移植が唯一の治療法なのですが、自己免疫性肝炎も原発性胆汁性肝硬変も肝移植の成績は素晴らしくいいのです。

 しかし、移植してももちろん体質は同じですから、再発の危惧はあるのです。原発性胆汁性肝硬変は、最初移植がなされたとき、ほとんどが再発するから移植はどんなものかというお話があったぐらいです。ところが移植のときの拒絶反応というのは、原発性胆汁性肝硬変に見られるような胆管障害と区別がつかないのです。起こってくる病態と同じなのです。ですからうまく免疫抑制剤を使って、拒否反応をうまくクリアしてやれば、そんなに再発を心配する必要はない。ましてやどんなに早くても10年、20年の経過で進んでいく病気ですから、移植をした後100年生きようとなると再発もあるかもしれませんけれども、30年と計算をすれば、少なくとも再発の問題は低く考えても良いかもしれません。そういうことで、生体肝移植の研究は非常に広まって、保険収載になったわけです。

 もちろん移植の場合には相手のあることなので、とてもどんどんお勧めするというわけではないですけれども、治療法として、認められた治療がある場合に、それを皆さん方に言わないわけにはいかない。可能性としてこういう道があるのだということを僕らは言う義務はあるわけで、やるやらないは別として、こういう道があるということは言わなければいけない状況になりました。

 もう保険に収載されたということは、当然皆さんも考えるべきだし、僕も考えなきゃいけないという状態になったということはご理解いただきたいと思います。

おわりに

 原発性胆汁性肝硬変の組織を採ったら診断できるんですけれど、病態では自己免疫性肝炎そっくりという病態があるということを先程申し上げました。これに別の名前を付けようというような動きは4、5年前からあって、去年アメリカでその会議を僕らもやったのですけれど、これはやはり原発性胆汁性肝硬変での肝障害が強い格好だろうというふうに結論づけています。ですから原発性胆汁性肝硬変といっても胆管障害だけではなくて、肝障害もあるのだということを考えて、そういうときの対応も十分考えていこうと思います。

 時間がなくて2つの病気を駆け足でお話ししましたけれども、免疫というものがこういう方に向いているとか、そのときに原因が不明なので治療法はないけれども、それぞれに対応がある。それから時代は変わって、やはり最終的な場合には肝移植というのも頭に入れて治療に当たらなければいけないという状況をご理解いただければと思います。

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