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肝臓がんと言われたら 取材・文 粥川準二
がんと肝機能の的確な診断が治療選択のポイント
取材協力 泉 並木 武蔵野赤十字病院消化器科部長肝臓がんの5年生存率が向上している。一つには診断技術の進歩で早期発見が可能になったこと。もう一つは手術以外の治療法で好成績が上げられるようになったことである。肝臓がんの治療は手術、ラジオ波・マイクロ波熱凝固療法、肝動脈塞栓術などいくつかある。がんの病期は同じであっても、背景となる肝病変が異なれば治療選択は変わる。どのような場合に、どの治療法を選択したらよいのかを、ラジオ波熱凝固療法の第一人者である武蔵野赤十字病院消化器科部長の泉並木医師に説明していただいた。
肝臓がんがほかのがんと大きく違うこと
肝臓がんは肝臓に発生するがんの総称であり、主に肝細胞がんと肝内胆管がんがある。そのほとんどが肝細胞がんであり、一般に肝臓がんという場合には肝細胞がんを指す。
肝臓がんには最初から肝臓に腫瘍ができる原発性肝臓がんと、胃や大腸などのほかの臓器にできたがんが肝臓に転移してできる転移性肝臓がんがある。羅患者は年々増加傾向にあり、死亡者数は2015年ごろまで増加し続けるとみられている。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれているように、初期の肝臓がん自体には症状がなく、肝硬変などによる肝臓の障害としての症状が主である。肝硬変とは、ウイルスなどにより肝細胞の破壊が進み、肝臓全体が萎縮してしまうことによって肝臓の機能が低下した状態をいう。肝硬変により、エネルギーの代謝や毒素の解毒など肝臓の機能が悪くなると、食欲不振や全身の倦怠感などの症状が現れる。やがて血管やリンパ管から漏れ出した成分が腹部にたまる腹水という症状や、手足や顔、白目の部分が黄色くなる黄疸が現れることもある。
肝炎や肝臓がんの治療に取り組む武蔵野赤十字病院消化器科部長、泉並木医師に、肝臓がんの治療方法の選択について尋ねてみると、「大前提として、肝臓がんはほかのがんと大きく違うことがあります」と説明してくれた。
「一つは、肝臓がんになるのは限られた人たちだということです。肝臓がんの患者さんのうち、B型肝炎ウイルスもしくはC型肝炎ウイルスに感染している人が90〜95%を占めます。逆に言えば、B型・C型肝炎ウイルスを持っていない人が肝臓がんになることはきわめて少ないのです」
つまり肝臓がんの患者は、がん以前に肝臓の機能が悪くなっており、手術を選択する場合には、機能の悪い肝臓にメスを人れることになる。
「もう一つの大きな違いは、たとえば手術をしてがんを切り取ったとしても、肝臓の残りの部分に慢性肝炎や肝硬変があり、再発がきわめて高率だということです。たとえばC型肝炎ウイルスに感染している場合、再発率は年間20%です。再発の多いがんだということです。肝臓がんの治療方法について考える際には、この二つの要素が重要です。ほかの臓器のがんとはまったく違うことなのです」がんの診断と肝臓の機能の診断
こうした事実を前提とし、肝臓がんの治療方法を選択する場合、「重要なことは、まず診断をきちんとすること」だと泉医師は占う。診断しなければならないポイントは二つある。
「一つは、がんについての診断です。がんの腫瘍の大きさと個数をきちんと診断しなくてはなりません。また、がんが門脈(肝臓に栄養を送り込む血管)まで浸潤しているかどうかを見る必要があります。門脈のなかにまで浸催していると、根治は難しくなるのです」
肝臓がんの診断方法には、血液検査と画像検査がある。血液検査では、AFP(アルファ・フェトプロテイン)やPIVKA(ピブカ)という腫瘍マーカーの数値をチェックする。画像検査では、超音波検査やCTスキャン(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像診断)により、腫瘍の大きさや個数をチェックする。
「もう一つは、肝臓の機能の診断です。肝硬変がどこまで進行しているのか、要するに、肝臓にメスを入れられる状態かどうかを診断するのです」
肝機能の診断には、「チャイルド分類」という基準を用いる。チャイルド分類でAランクというのはまだ肝硬変の人り口であり、黄疸も腹水もない状態である。Bランクは、中くらいの肝硬変である。Cランクはかなり進行した肝硬変で、腹水や黄痕、肝性脳症が見られる状態をいう。この場合、手術は難しくなる。
こうした診断結果をもとに、具体的な治療方法が決められる。現在、肝臓がんの主な治療方法としては、手術による切除、マイクロ波・ラジオ波による熱凝固療法、肝動脈塞栓術が行なわれている。
患者の肝臓を診断してみて、腫瘍の大きさが3cm以下で、2個以上の腫瘍が1カ所に固まっており、肝臓の機能がいい場合(チャイルド分類でAランクからBランクの上のほうである場合)には、手術をすることになる。また、がん細胞が門脈にまで浸潤している場合にも手術することになる。いまは画像技術が発展し、かなり細かいところまで見ることができるようになった。マイクロ波やラジオ波でがん細胞を焼く
腫瘍の大きさが3cm以下であり、かつ、腫瘍の個数が3個以下で、門脈に浸潤がない場合には、マイクロ波・ラジオ波による熱凝固療法が適用されることになる。どちらも先端から電磁波を発する針を患者のお腹に刺して、超音波を見ながら、がん細胞を加熱凝固してしまうという治療方法である。局所麻酔のみで実施することができ、体への負担が非常に少ないことが長所である。再発を繰り返す肝臓がんの治療方法として有効とされ、近年、多くの医療施設で採用されている。本年度中には保険適用になる見通しである。【注】本年四月より保険適用になりました。
マイクロ波とラジオ波の違いは、電磁波の波長の違いである。電子レンジでも使われているマイクロ波は焼くことのできる範囲が小さいため、腫瘍の大きさが2pぐらいまでの場合に使う。一方、ラジオ波は3cmぐらいまで使える。
治療にかかる時間は1〜2時間と短く、翌日から歩くことができ、食事も普通に食べることができる。順調ならば治療後4〜5日で退院することもできる。武蔵野赤十字病院の集計では、治療した場所の再発率が年間3.9%ときわめて低く、そのため生存率が高いことがわかってきている。
マイクロ波・ラジオ波ともに、チャイルド分類のAランクとBランクはすべて適用になり、Cランクでも比較的状態がよければ可能な場合もあるという。
「だから切除手術よりも適用の範囲が広いのです。1回で3cmぐらいの腫瘍を焼くことができるのですが、それでも残ってしまうことがあるので、何カ所か焼く必要があります。がん細胞をいかに残さないようにするかが難しく、残念ながら、施設によって治療成績が異なるのが実状です」
腫瘍の個数が4個以上、または、腫瘍の大きさが3cm以上、このどちらかの場合には、肝動脈塞栓術を行うことになる。チャイルド分類では、A〜Bランクが適用になる。これ以外の条件では、再発率が高くなるという。肝動脈塞栓術とは、がん細胞に酸素や栄養を供給している動脈を、人工的にふさいでしまうことで、酸素と栄養の供給を紡ぎ、死滅させる方法である。正常な肝細胞は動脈と門脈という二つの血管から酸素や栄養を得ているが、がん細胞は動脈からのみ酸素や栄養を得ているので、動脈をふさがれると肝がん部分だけ死滅し、正常な肝細胞は生き残る。この治療方法も、患者の負担は比較的少ない。
「なぜ肝動脈塞栓術を第一選択にしないのかというと、がん細胞というのは雑草みたいなもので、たとえ動脈をつめてしまっても、どこからか栄養をもらって生き残ってしまうのです。100%がん細胞を死なせることは非常に困難なのです」
そのほかエタノール注入法といって、超音波画像を見ながら患部に狙いをつけ、エタノールをがんの部分へ注射し、アルコールの脱水凝固作用によりがん組織を死滅させる方法もあるが、いまはマイクロ波・ラジオ波による熱凝固療法のほうが成績がいいとわかっているので、あまり行なわれなくなった。どうしても太い針を刺せないという場合などに例外的に適用されるという。
また、肝臓がんに効く抗がん剤は少ないという。きわめて進行した患者の再発予防には、5―FUとインターフェロンの併用が有効だと言われており、現在、治験が進められている。なお肝臓がんには放射線治療はあまり効果がないとされている。
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生存率向上の理由は診断技術の向上
「肝臓の機能低下とがんの進行、どちらが患者にとって問題になるかをよく見て、治療方針を決める必要があります。一般的にいって、チャイルド分類でCランクだと、がんそのものではなく、肝硬変が患者の生命を決める原因になります。だからCランクになったら、がんを無理に治療せず、肝硬変が進まないように治療します。治療をやるとしても、ラジオ波か肝動脈塞栓術です。その場合にも、肝硬変を並行して治療しないと、生存率が上がりません」
つまり肝臓がんの患者が長生きするためには、がんの再発を予防することに加えて、肝硬変を進行させないことが重要、と泉医師は言う。
肝臓がんの再発予防には、インターフェロン、ビタミンK、レチノイドといった薬品が効果があるとされている。
まずインターフェロンは、明らかな効果が報告されているのだが、残念ながら慢性肝炎の治療以外には保険が通用されておらず、自費になってしまう。骨粗しょう症の治療薬として保険適用を受けているビタミンKも、再発予防薬として注目されており、これからその効果を検証するための治験が開始される。またレチノイドも、岐阜大学の医師たちにより再発予防効果があると発表され話題になったのだが、こちらも治験が始まろうとしているところだ。
肝硬変を進行させないために重要なことは、アミノ酸を補充することだと泉医師は説明する。肝硬変というのは、タンパク質(アミノ酸)をつくる力が弱くなる病気である。肝硬変では、アミノ酸のなかでも分岐鎖アミノ酸といって、ロイシンやイソロイシン、バリンなどが不足する。それを外から補ってやるのだ。その場合はリーバクトという薬品が有効だという。
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また、ALT(GPT)という肝炎の指数を80以下にすることが重要である。これには、強力ネオミノファーゲンCやウルソという薬品が有効であり、これらの服用により、肝硬変の進行を遅くすることができる。
現在では、肝臓がんの生存率は少しずつ上がってきている。
「肝臓がんは再発宰が高いのですが、5〜6年の間に7〜8回再発しても、そのたびにラジオ波で治療している患者さんがたくさんいます。5年生存率は60%を超えているでしょう。当病院の成績はホームベージにも載っています(グラフ参照)。5年生存率が向上した最も大きな理由は早期発見です。超音波診断やCTスキャン、MRIの技術が向上したことにより、2p以下の腫瘍も見つけられるようになって、早期に治療できるようになったことです。ウイルス性肝炎の患者さんは定期的に検査することが大切です」
がんが進行していなければ、それだけ患者に合った治療方法を選択することが可能になる。もう一つの理由が、ラジオ波・マイクロ波による熱凝固療法など、患者の体に負担をかけない治療方法の進歩である。
「正常なところまで切り取ることにはあまり賛成できません。なるべく肝臓にダメージを与えず、がんの部分だけを治療するのが、長生きするコツだと思います」というのが、泉医師の意見である。この稿は、「月刊がん もっといい日」2004年4月号より許可を得て掲載しました。