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講演録 デルタクリニック理事長 日野邦彦 先生
B型肝炎相談会と部会設立会 東京肝臓友の会
「B型肝炎相談会と部会設立会」にあたってB型肝炎の患者さんの不安や悩みを解消するためには、
B型肝炎の正しい知識を身に付けることがもっとも重要です。はじめに
第1回目のB型肝炎相談会と部会設立会にあたって、ラミブジン、アデフォビル、あるいはエンテカビルなど最新の薬の話も考えましたが、おさらいをかねてB型肝炎についての基本的な話をさせていただくことにします。
1 B型肝炎ウィルス(HBV)とは?(図1)
B型肝炎ウィルスを持っている人の血液中にHBs抗体を加えて、B型肝炎ウィルスの表面タンパクであるHBs抗原を凝集させ、電子顕微鏡で見た写真です。すなわち、これがB型肝炎ウィルスキャリアの人の血液中に流れているB型肝炎ウィルス関連粒子です。ウィルスの形状は球状で、直径は42ナノメーター(10億分の42メーター)と小型の粒子です。その他にも、球状あるいは細長いHBs抗原が沢山血液中に流れていることが分かります。この電子顕微鏡の写真は現在広島大学にいらっしゃる吉沢先生が30年くらい前に撮られたものです。
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B型肝炎ウィルスは自分自身で遺伝子を増やす酵素を持っている(図2)
B型肝炎ウィルスがどのような構造になっているのかを模式図で表現したものです。電子顕微鏡で丸く見えたウィルス粒子は、厳密には五角形をしています。他の多くのウィルスと同様、B型肝炎ウィルスもウィルスの遺伝子とそれを包むタンパク質とから構成されています。ウィルス遺伝子を包む一番表面のタンパク質(エンベロープタンパク)はHBs抗原と呼ばれ、内側のタンパク質はHBc抗原(芯:コア)と呼び、その一部がHBe抗原タンパクです。中心にはB型肝炎ウィルス遺伝子が存在し、約3200個の塩基からなり二重の円形(環状)をしています。B型肝炎ウィルスはデーンという人が発見したので、デーン粒子とも呼ばれています。B型肝炎ウィルス遺伝子(DNA)上には、HBs抗原、HBc抗原、HBx抗原を担う領域の他に、DNAポリメレースという遺伝子が増えるために必要な酵素を担う領域が存在します。
HBV―DNAは、血液中では環状構造の内側のDNA(プラス鎖)が一部欠損していますが、肝細胞に感染した後にDNAポリメレースの働きで伸長し、外側のDNA(マイナス鎖)と同じ長さになります。そして、RNAに転写し肝細胞の働きも借りて、HBs抗原やHBc抗原が作られます。一方、遺伝子の増幅は通常のDNAの複製と違って、一旦RNAに転写した後、再びDNAに逆転写されます。この逆転写にもDNAポリメレースが作用します。一般に、DNAからDNAの複製であれば遺伝子変異を生じることは少ないのですが、RNAは変異を起こしやすいため、逆転写過程を踏むHBV―DNAは変異を生じやすいウィルスです。
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肝細胞でのHBVの増殖のサイクル(図3)
肝細胞にB型肝炎ウィルスが感染すると、どのように増えていくのかを表したものです。B型肝炎ウィルスの一番表面にあるHBs抗原に対するレセプターをどんな人でも肝臓の表面に持っています。HBVは先ずこのレセプターというのに接着します。そして、肝細胞内に能動的にウィルスが取り込まれ、表面のHBs抗原を脱いで、芯のHBc抗原に包まれたHBV―DNAが肝細胞の核の中に取り込まれます。前述の如く、不完全なDNAがDNAポリメレースの働きで完全二重鎖になり、RNAに転写して肝細胞の中でHBs抗原やHBc抗原、HBe抗原タンパクが作られます。そして核の中で増幅したHBV―DNAがHBc抗原の中に取り込まれて、HBs抗原の殻を被り血中へと放出されます。
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HBVの遺伝子構造(図4)
血中でのHBV―DNAの構造を示したものです。二重(環状)構造からなり、プラス鎖の一部は欠損していることが分かります。HBVDNA上にはHBV関連タンパク(抗原)を担う領域が一部重複して存在します。
DNAには、親から引き継いだ遺伝情報が詰まっており、それを次の世代に正確に伝えます。DNA自体には何の機能も持ちません。DNAがRNAに転写され、RNAは必要なタンパクを作るために作用します。B型肝炎ウィルスでいうと、HBs抗原とかHBc抗原とかHBe抗原とかを作るために作用します。一般的には、RNAの役割が終了するとRNAを壊す酵素によって消滅します。つまり、RNAが再びDNAに戻ることはないのです。
ところが、B型肝炎ウィルスのDNAはRNAに転写した後、再びDNAに逆転写します。この逆転写を生じるところに非常に大きな問題があります。DNAの遺伝子配列は間違いを起こすことが非常に少ない(間違えても修復する機能を有しています)のですが、RNAの遺伝子は配列に間違い(変異)を起こしやすい上に、それを修復する機能をもっていません。したがって、HBV―DNAは変異を生じやすいのです。
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これからは患者会でも遺伝子の変異という勉強をする必要があります(図5)
B型肝炎ウィルスのDNAは全部で約3200個の遺伝子からなり、それぞれの遺伝子はHBsタンパクを作る領域、芯のHBcタンパクを作る領域、逆転写酵素として働くDNAポリメレース領域、機能がよく分かっていないX遺伝子と呼ばれる領域などに分かれることがわかっていますが、それぞれが一部重複しています。各領域に変異が生じた場合の例を紹介します。
S領域、つまり表面のタンパクを作る領域の遺伝子に変異が起こると、B型肝炎ワクチンが効かなくなるという問題を起こすことがあります。また、稀にはこの領域の変異によってHBs抗原の検出ができなくなり、実際にはB型肝炎ウィルスが存在するのにHBs抗原が陰性であるという現象が起こります。
HBVの芯にあたるHBc抗原の一部(プレコア)に決まった位置のたった1個の遺伝子の変異が起こることによって、HBe抗原が消失します。つまり、HBe抗原からHBe抗体へとセロコンバージョンするのです。また、HBc抗原領域の変異は肝細胞障害と関連することが知られています。
X抗原の一部の領域(コアプロモーター)の変異は、肝病変の進展した人ほど変異が著しいことが知られています。
DNAポリメレース領域で最も注目されていることは、DNAポリメレース阻害剤であるラミブジンを治療のために長期間投与すると、この領域に変異が生じ、ラミブジンが効かなくなります(ラミブジン耐性株)。
このようにHBV―DNAは、RNAからDNAに逆転写するためにB型肝炎の病態とか診断、治療に影響を及ぼす様々な変異を起こすことが知られています。
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HBVのウィルス型(図6)
B型肝炎ウィルスにもDNA遺伝子の配列の違いによってA型からG型(H型)まで7〜8つのタイプに分けることができます。これも広い意味では変異の一型です。ウィルス型のことをゲノタイプ、あるいはジェノタイプというふうに呼びます。
日本ではゲノタイプC型が最も多く、次いでB型、A型であり、その他のウィルス型は極々まれです。図6はデルタクリニックの患者さんのウィルス系の分布を示したものです。ゲノタイプC型が約7割を占めています。ゲノタイプによって病状や予後、治療効果などが異なることが知られています。日本に最も多いゲノタイプC型は病気が進みやすく、抗ウィルス治療にも抵抗性であることが知られ、ゲノタイプB型はさらに二種類に分かれますが、日本に多いゲノタイプB型は一般に予後良好で、治療効果も得やすいことが分かっています。ゲノタイプA型も比較的予後良好ですが、ゲノタイプA型に感染すると成人の感染でもキャリアに移行する率が他のゲノタイプより高率であることが知られています。
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2 HBVの感染経路(図7)
HBVキャリアの人の感染源は、ほとんどがキャリアのお母さんから産まれてくるときに子供へと感染する垂直感染です。あるいは、生後3歳くらいまでにキャリアのお母さんやお父さん(父子間感染)などから感染したものです。昔は予防注射などの医療行為から感染したことも、現在のHBVキャリア成立の一因となっています。
また成人の感染では、性交渉や入れ墨、麻薬の回し打ちなどが、HBV感染の原因となります(母児間感染を垂直感染と呼ぶのに対して、これらの感染ルートは水平感染と呼びます)。成人になってからの感染では、大部分一過性感染で終止し、30%は急性肝炎を発症し(稀に劇症肝炎で死亡)、残りの約70%は自覚症状もなく、ともに一過性で治癒します。ごく一部の人は成人の感染でもキャリアに移行することがあります。これはウィルス型によって頻度が異なり、ゲノタイプA型のHBV感染ではキャリア化しやすいことが知られています。
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HBVの感染防御はHBs抗原がレセプターに着かないようにすること(図8)
B型肝炎ウィルスが体内に侵入したとき、HBs抗体を保有していれば速やかにウィルスの表面タンパクであるHBs抗原と結合して、肝細胞の表面に存在するレセプターに接着することを阻止します。したがって、あらかじめHBワクチンを接種してHBs抗体を獲得させたり、感染の機会をもったときに直ちにHBs抗体含有γグロブリンを注射して感染防御を行います。
これはもう昔になりますが、大阪におられた大林先生と都立大久保病院の産婦人科の岡田先生が、母児間感染によるキャリア家系が存在することを明らかにされたことに端を発し、母親がHBVキャリアの場合には産まれてくる子供にHBs抗体含有γグロブリンやHBワクチンを接種する現在の制度が確立され、わが国ではHBVキャリア率は激減しています。
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B型肝炎のメカニズムはウィルスを排除しようとする生体の免疫反応です(図9)
B型肝炎ウィルス自体は直接肝細胞を壊す能力はありません。このことは、垂直感染で母親から子供へと感染し、キャリアに移行しても肝細胞障害を起こすことなく経過します。つまり、肝細胞の中でB型肝炎ウィルスが活発に増殖しているにもかかわらず、肝機能に異常は認めません。通常、10代後半から30代にかけて肝炎が起こります。この理由には、次のようなメカニズムが考えられています。B型肝炎ウィルスの遺伝子(HBV―DNA)に変異をきたし、それまで共存関係にあった生体の免疫のバランスが壊れ、HBVを排除しようとして肝細胞障害が起こると考えられています。
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3 HBV感染の診断(図10)
B型肝炎ウィルスの感染の有無を知り、感染している場合にはウィルスの増殖能の判定をする必要があります。ウィルス自体の成分を検出・分析する検査と、感染した場合に生体がウィルスに反応して作るタンパク(抗体)の検査とに大きく分類することができます。
ウィルス側の検査には、表面のタンパク、芯のタンパク、それから遺伝子(HBV―DNA)、ウィルス型といった検査の他に、HBV―DNAの変異を検査する方法などがあります。生体側の抗体検査には、ウィルスの各成分に対応する検査が幾つか存在します。
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B型肝炎の診断に必要な肝機能検査はGOT、GPT以外の検査の重要性も認識すべき(図11)
肝細胞障害の程度の指標として、肝細胞に含まれる酵素のGOTやGPTがよく知られています。しかし、GOTやGPTは一時点の値よりも変動状態が重要で、高値で変動する人は活動性が強く進行性と判定します。また、肝の予備能(機能)を知る検査はより重要で、重症度の判定に役立ちます。さらに、進展度診断は予後を推定する意味から重要と言えます。単一の検査で肝病変の状態を診断することは難しく、各種の検査を組み合わせて判定します。これらの検査はまた、治療の必要性や治療の方法、治療効果判定などにも用いられます。肝細胞癌の診断として、AFP、PIVKA―Uの血液検査に加えて、腹部超音波検査などの画像診断も定期的に行わなければなりません。
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4 HBV感染の経過と病態
新生児・幼児期の感染と成人の感染は経過と病態が違う(図12)
B型肝炎ウィルスの感染の時期や感染の経過(一過性感染か持続感染か)によって、病態が異なります。垂直感染(母児間感染)を主体とする3歳以下の感染では、しばしば持続感染へ移行し、病態は肝機能が正常で推移する人(無症候性キャリア)、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌など様々です。特別な場合を除いて、成人期にHBVの感染を受けてもキャリア化することはほとんどなく、大部分は自然に治癒し一部は急性肝炎を発症して治癒します。急性肝炎のごく一部は、劇症肝炎を発症し死に至ることがあります。
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B型慢性肝疾患のキャリアの死因は肝癌が多いが、治療の進歩により総数は減っている(図13)
感染後、B型肝炎ウィルスキャリアに移行すると、10代から30代にかけて肝炎を発症することは前述しましたが、肝炎は数年を経て自然に緩解し(このとき、HBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョンが生じ、B型肝炎ウィルスの増殖能を反映するHBV―DNA量も激減します)、再びGOT、GPT正常の無症候性キャリアで予後良好な経過を辿ります。一部の人は(約10〜20%)、肝炎期が長期に及び(HBe抗原が持続陽性かHBe抗体へとセロコンバージョンしてもHBV―DNA量が高値で変動する)、治療を受けなければ進展して肝硬変へと移行し、高率に肝細胞癌を合併します。B型肝炎ウィルスキャリアの死因は、肝硬変による肝不全(食道静脈瘤破裂、肝性脳症、黄疸など)か肝細胞癌による肝不全または癌死です。B型肝炎ウィルスキャリアでは、肝硬変をともなわず軽い慢性肝炎からも稀に肝細胞癌を発症することがあり、腫瘍マーカーや超音波検査などを定期的に行う必要があります。
最近、B型肝炎の診断と治療の進歩は目覚ましく、肝不全や肝細胞癌による死亡数は減少傾向にあります。
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ウィルスマーカーとGPTからみた肝細胞癌合併率(図14、図15)
HBe抗原・抗体は、B型肝炎ウィルスキャリアの予後の指標として用いられてきましたが、HBe抗原の有無にかかわらず、GPT(ALT)の変動例では肝細胞癌の合併率が高く、正常持続例では肝細胞癌の合併率は低率です。しかし、このことはHBVの増殖能と病態や予後が関係しないというわけではありません。B型慢性肝炎では、GPTの上昇前にHBV―DNAが増加し、GPTの低下に先立ってHBV―DNAは減少します。この現象を繰り返すことによって肝病変は次第に進行し、肝硬変や肝細胞癌合併の原因となります。したがって、HBe抗原陰性(HBe抗体陽性)の人も定期的にHBV―DNA量と肝機能検査を受けなければならないのです。そして、必要に応じて適切な治療を受ける必要があります。図15に示された通り、GPTは常時60単位以下に維持されている必要があります。
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肝病変の進展度(ステージ)と肝細胞癌合併率(図16)
肝炎ウィルスキャリアの進展度は、正確には肝生検によって肝臓の一部を採取し顕微鏡で診断しますが、前述の線維化マーカーや腹部超音波などの画像によってもある程度判定可能です。進展度は肝線維化の程度によって、0:線維化のないもの、1:線維化の軽度のもの、2:線維化の中等度のもの、3:線維化の高度のもの、4:肝硬変の5段階に分類されますが、進展度と肝細胞癌の合併率とは密接に相関し、線維化が高度になるにつれて肝細胞癌の合併率も高くなります。したがって、B型肝炎ウィルスキャリアの人は進展度診断が重要です。
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5 B型慢性肝炎の治療(図17)
B型肝炎ウィルスキャリアの病態は、HBVの増殖能や変異とそれに反応する生体の免疫能によって肝細胞障害が惹起され、HBVの増殖の持続様式によって様々な経過を示すことを説明してきました。HBVキャリアの大部分は、一時期肝炎を経過した後、自然経過で鎮静化して肝硬変や肝細胞癌に進展することはないのですが、自然経過ではHBVの増殖が活発で、肝炎も増悪を繰り返す例が存在し、積極的な治療の介入をしなければなりません。
治療法の一つは免疫療法です。生体の免疫応答が不十分だから感染肝細胞が破壊されず、増殖能の活発なウィルスが残ってしまい、肝細胞障害も持続してしまうので、免疫を十分働かせてやるように助けてやる治療です。二つ目は、増殖能の活発なウィルスを直接たたいてしまおうという目的で行われる抗ウィルス療法です。これらは、いずれも原因療法といえます。また、GPTの経過によっては肝硬変や肝細胞癌に進展してしまうことから、肝細胞障害を抑制する治療が考えられ、これが三つ目の治療法で、強力ミノファーゲンCやウルソ酸などの投与が行われます。B型慢性肝炎の治療はこの三本柱から病態に応じて選択され、時にはそれぞれを組み合わせることもあります。ここでは、抗ウィルス治療についてお話しします。
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T 免疫療法(図18)
免疫療法は、十分肝炎を起こさせることでウィルスを排除して、結果的に肝炎を治めようという方法です。サイモシンα1というのは、まだ治験中ですのでどの程度の効果があるか明確になっていません。プロパゲルマニウムは投与によってGPTが改善されることが確認され、保険に収載されたのですが、本剤は生体の免疫を高める結果、肝炎が治まることが判明しています。一番効果的なのは、コルチコステロイド離脱療法です。コルチコステロイドは、抗炎症効果をはじめ多くの作用機序を有していますが、生体の免疫能を抑制する作用も強くもっています。コルチコステロイドをB型慢性肝炎の人に投与すると、抗炎症作用と免疫抑制作用によってGPTは低下し、反面HBVの増殖が高まります。コルチコステロイドは、その他直接B型肝炎ウィルスを増やす作用も有しています。このコルチコステロイドを投与してその作用が現れた時点で投与を中止すると、生体の免疫反応が反跳し肝炎を引き起こす結果、感染肝細胞は破壊されて結果的にHBVが減少します。
これらの免疫療法は、免疫応答が強すぎて、肝炎が重症化する危険を合わせもっているために、B型肝炎に造詣の深い専門医によって行われなければ危険です。
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U 抗ウィルス療法(図19)
B型肝炎ウィルスの増殖を抑制する治療が抗ウィルス療法です。抗ウィルス治療法で最初に効果が確かめられた薬剤はインターフェロンです。保険に認可された当初は、4週間という短期投与でしたが、有効性が低いために現在では24週間投与が許可されています。インターフェロンはGPTが低下傾向を示し、HBV―DNA量が比較的少ない症例に有効で、年齢が若くまた男性より女性に有効率が高いことが知られています。しかし、投与中止後再燃する例も多く認められます。
最近、核酸アナログと呼ばれる薬剤が開発され、その一つであるラミブジンが既に保険に収載されていることはご存じの通りです。本剤は、前述のHBVの増殖過程で、HBV―DNAの転写や逆転写を司っているHBV―DNAポリメレースの阻害剤です。その効果は顕著で、ラミブジンを投与すると1〜2ヵ月でHBV―DNAが激減し、続いてGPTも低下します。副作用もほとんどありませんが、催奇性が懸念されるので妊娠を希望する男性、女性ともに適応ではありません。投与中は厳格に避妊すべきです。一方、投与を中止するとその70〜80%が再燃します。かといって長期投与をすると、高率にDNAポリメレースを担うHBV―DNAの変異が生じて効果が減弱します。とくに、ラミブジン投与後HBVDNAの低下が鈍く、HBe抗原が消失しにくい例で変異が生じやすいことが判明しています。この変異株のことをラミブジン耐性株と呼びます。耐性株ができると、HBV―DNAが再び増加し、その半数はGPTも再上昇します。この現象はブレイクスルーヘパタイティスと呼ばれています。ブレイクスルーヘパタイティスにはインターフェロンや強力ミノファーゲンCが有効な例もみられますが、概して難治性です。他の核酸アナログであるアデフォビルを投与するとある程度有効ですが、保険にはまだ収載されていないので個人輸入して投与するしかありません。したがって、不用意にラミブジンの投与を行ってはいけません。現在、アデフォビルの他、エンテカビルなどの核酸アナログの臨床試験が行われており、これらの単独または併用投与の有効性を明らかにすることが将来の課題です。
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B型慢性肝炎に対する抗ウィルス治療成績(図20)
各種抗ウィルス治療成績をHBe抗原の有無別に比較しました。HBe抗原陽性例では、コルチコステロイド離脱とインターフェロンとの併用療法の成績が最も良好です。次いでラミブジン治療が効果的です。また、HBe抗原陰性例ではコルチコステロイド離脱療法は重症化する可能性が高いために行っていませんが、インターフェロンの6ヵ月投与が有効であったのは約60%で、ラミブジン療法でも半数が有効でした。
以上、B型肝炎ウィルスキャリアについての概要を述べましたが、HBVキャリアの人は、まず病態診断をしっかりつけてもらい、自分自身でHBVの増殖能や病状についてよく理解しなければなりません。多くのキャリアは予後良好ですので、GPTが高いからといって不用意に抗ウィルス治療を受けることなどがないようにしなければならないと思います。真に治療が必要か否かを確実に診断してから、治療を受けるべきです。なぜなら、抗ウィルス治療に完全なもの(効果、副作用)はまだないからです。こういった意味で、友の会の関係者のご努力によりこのようなB型肝炎の部会が立ち上がったことは、非常によいことだと思います。キャリアの方々が交流を深め、知識を得て治療が必要な方は効果のみならず、リスクについても十分理解し納得して、最良の治療を受けられることを祈念します。
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●● B型肝炎 相談の部 ●●
アデフォビルやエンテカビルなどの新薬は今どういう段階、状況なのですか?
【質問1】
アデフォビルの臨床試験は、ラミブジン耐性株ができた人を対象に行われ、ある程度の成果が認められたことから、近々厚生労働省に申請し許認可を受ける予定です。
【日野】
エンテカビルの臨床試験は、投与量を変えた方法で実施されている状況です。いずれ適応量が決定されて、近い将来厚生労働省に申請されるものと思います。
これらの新薬(いずれも作用機序はラミブジンと同じ核酸アナログです)が登場すると、ラミブジンを含めた併用療法(カクテル療法)も検討され、耐性株の問題も解決され、B型慢性肝炎に対する治療は一段と進歩すると予想されます。
キャリアで最近発症したのですが、早めにインターフェロン等の治療をすべきでしょうか。
【質問2】
無症候性キャリアからの急性増悪の場合は、重症例(黄疸、肝不全徴候)を除いて積極的な治療を行う必要はありません。多くは、自然経過でB型肝炎ウイルスの増殖能が低下(HBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョン、HBV―DNA量の低下)し、やがて肝機能も正常化して良好な経過を辿ることが多いからです。なかには、肝炎の状態が長期に及び、肝硬変への進展傾向を示すことがあります。その場合のみ、インターフェロンや他の抗ウイルス治療を行います。定期的な肝機能検査、ウイルス学的検査、腹部超音波検査、腫瘍マーカーなどを受けて下さい。
【日野】
ラミブジンを飲んでいたが耐性株がでてきて、最近調子が悪い。強ミノをやっているが効かない。インターフェロンもやったが、現在ALTの値が300で推移している。主治医にアデフォビルのことで相談をしたら「副作用が心配」といい顔をされなかった。どう考えたらよいですか?
【質問3】
アデフォビルの副作用は腎障害を除いて、現時点では重篤なものは報告されていません。私たちも多くの経験をもっていますが、1日10mgの投与ですが腎障害などで中止に至った例はありません。主治医が「副作用が心配」と言われているとすれば、蛋白尿や尿素窒素、クレアチニンなど腎機能の低下があるのかもしれませんので、尋ねてみて下さい。耐性株による肝障害が強く、強力ミノファーゲンCやインターフェロンが無効のようですから、腎機能障害がないようなら積極的にアデフォビルを試みられるのがよいと思います。ただし、HBe抗原量やHBV―DNA量が高値の場合には、アデフォビルを併用しても速やかには改善されず効果は緩除ですので、辛抱強く内服を続けなければならないことを理解しておいて下さい。
【日野】
36歳の主婦です。最近急性憎悪でGPTがあがったので強ミノをやりましたが、GPTが300ぐらいまでしか下がらない状態が続いています。初めての急性憎悪でわからないこともありますが、元気はあります。主治医にはずっとラミブジンを勧められているのですが、妊娠出産を考えると抗ウイルス剤は使いたくないと思っています。あるところに聞いた所「今まで全世界で800人ぐらい、ラミブジンを飲みながら出産した例があるけれども、奇形があった例はないので、飲んで構いませんよ。」とも言われたのですが、どう考えたら良いですか? ラミブジンを飲まないとすると、週6日強ミノをやるとか、自然経過を見ても良いのか。主治医の先生とは長い付き合いなのですが、ずっとラミブジンを勧められていまして、正直困っています。
【質問4】
確かにラミブジン服用中の患者さんから奇形児が産まれたという報告は現在までないようですが、ラミブジンやアデフォビル、エンテカビルといった核酸アナログと呼ばれる薬剤は、ウイルスの遺伝子増殖に必要なDNAポリメラーゼという酵素阻害剤ですから催奇性が疑われます。したがって、これまで奇形児の報告がないからといって全面的に安全とは言えません。お子様を望まれているようですから、小生もラミブジンの投与は反対です。HBe抗原量やHBV―DNA量にもよりますが、インターフェロンの投与を検討されては如何でしょうか。また、GOT、GPT以外の肝機能検査(肝予備能)、血小板数などが正常で、進展度も軽度なら自然経過をみても問題ないと思います。
【日野】
強ミノを全く打たないで、ラミブジンも飲まない場合、ある程度GPTが高くなります。一方で、すぐに子供が出来るとも限らないのですが、そのまま何も治療しないでというのはどの辺までが限界でしょうか。
【質問5】
妊娠・出産を望まれているようですから、強力ミノファーゲンCで肝機能が安定するようでしたら、注射を続けられては如何でしょうか。B型肝炎ウイルスキャリアの場合、多少GOT、GPTが変動してもHBe抗原・抗体やHBV―DNA量の経時的変化および肝予備能(アルブミン、プロトロンビン値など)、血小板数、腹部超音波所見、肝線維化マーカーなどの成績によっては、治療を必要としないで自然経過をみてもよい場合も少なくありません。
【日野】
38歳の息子が12年前に発病して、インターフェロンはもう4回やりました。2年前からラミブジンをやって、1年ほどして抗原も陰性になって落ち着いたので薬を飲むのをやめました。そうしたらまた急激にGPTが300〜400ぐらいに上がって再入院。そして今度はラミブジンとインターフェロンをやりました。今はGPTが10くらいで落ち着いているのですが、ウイルスのDNA量が徐々に上がって5になりました。先生は最近になって「新しいお薬を」ってちらっと言ったらしいのです。それがきっと今日お話に出たアデフォビルだと思うのですけれども。今のところ異常値が出ているのはDNAとZTTだけで、それ以外はすべて正常値なのですが、やはりアデフォビルを飲んだほうがいいのでしょうか。
【質問6】
正確には、ラミブジン耐性株の検査が必要ですが、ラミブジンを投与しているにもかかわらず、HBV―DNA量が増加しているので、耐性株の出現が懸念されます。しかし、肝機能の増悪は認められないので、アデフォビルの適応は現時点ではないように思われます。ラミブジンとインターフェロンとの併用効果については、まだ結論は出ていません。
【日野】
私の場合は、一番最初の治療はセロシオンで、2年間やりましたが、全然効果がありませんでした。
【質問7】
セロシオンの作用機序は、生体の免疫能を高めてHBVを抑制し、結果として肝機能の改善をもたらすものです。したがって、治療効果には個人差が非常に大きいのが特徴です。治療が必要なら他の治療薬を検討してもらって下さい。
【日野】
今はアルブミンは低くなって落ち着いています。肝臓の働きそのものが弱っているのではと不安なのですが。
【質問8】
アルブミン値は肝機能の面から極めて重要です。現在の進展度にもよりますが、是非、専門の栄養士から食事指導をお受けになることをお勧めします。場合によっては、サプリメントなどを検討してもらって下さい。いたずらに高たんぱく食を行うと、肝硬変の場合にはアンモニアを上昇させる危険がありますので、自己流でやることなく主治医の指示の下で行って下さい。
【日野】
うちの息子ですが、職場の検査で分かって、自覚症状は全然なかったのですが、それ以降強ミノを一日おきに打っていました。あと少しで慢性肝炎になってしまうのではと心配していたのですが、先ほどの先生のお話では、慢性肝炎になっている可能性は少ないと見てよろしいのでしょうか。もうGPTの数値も下がったから、今は治療を何もしていないと言っていたのですけれども。
【質問9】
HBe抗原が陰性化し、HBV―DNA量も低値で推移し、肝機能が正常値なら定期検査を受けるだけで十分と思います。
【日野】 おわりに
最後に、B型肝炎ウイルスキャリアの病状は、まったく健常者と同じ状態から、慢性肝炎で抗ウイルス治療を必要とする人、肝硬変で肝不全対策が必要な人まで様々です。病状によって検査の間隔は異なりますが、肝細胞癌の合併の検査(腹部超音波検査、腫瘍マーカー)を受けることも忘れてはなりません。一人一人が自分自身の病状を正確に把握することが重要です。その上で、主治医とのコミュニケーションを大切にして下さい。受診の度に納得できる説明をしてもらって、適切な治療とアドバイスの下で、精神的にも肉体的にも健常な生活を送られることを切望します。